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第81話  Soft Machine 『Live At The Proms』 (1970) U.K.

今夜の一曲 Esther's Nose Job (中編)


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<Pigの正体は?>

 「Pig」は、その後も姿形を変えて様々な音源に登場する。だが、ライヴ・セットにおいて、『Esther's Nose Job』組曲中「Pig」がメドレー演奏されることはあっても、ワイアットのヴォーカル・バージョンにはなかなか出会えない。心が折れますな。

 演奏の多くはジャズ・アンサンブルのフォーマット。まさしく火の出るようなインプロ合戦だ。ワイアットが口を開くことはあっても、"ダーダーダー・ア・ア・ア"のスキャットなので、新たな切り口は望めそうにない。

 とにかく「Pig」については、世間ではトマス・ピンチョン(Thomas Pynchon)絡みということになっている。ピンチョンの小説にはピッグ・ボーダイン(Pig Bodine)という人物が幾度となく顔を出す。

 初出は処女作『V』(1963)だが、実は習作時代の『低地』(Low-lands)にもピッグ・ボーダインが登場する。『低地』が収められた短編集『スロー・ラーナー(のろまな子)』(Slow Learner)(1984)には、ピンチョン自身によって『序』(Introduction)が書かれた。そこで彼は、ピッグ・ボーダインの素性について語っている。


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 「(『低地』には)受け入れることのできない次元の人種差別的、性差別的、原始ファシスト的おしゃべりが全篇を通じてあることに、(読者は)ぞっとするだろう。」とした上で、それこそ「ピッグ・ボーダインの声に過ぎないのだ。」と付け加えている。さらに「残念ながら、それはまた当時のぼく自身の声でもある。」とさえ。

 さて、『低地』の第一幕。主人公のデニス・フランジ(Dennis Flange)が、ゴミ収集人の友人ロッコ(Rocco)と昼間から飲んだくれている。ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi)の「ヴァイオリンのための第六協奏曲」(Violin Concerto in C major 'Il Piacere')を聴いていると、第二楽章の途中で、突然ドア・ベルが鳴る。

 妻のシンディ(Cindy)がドアを開ける。そこにはデニスの海軍時代の部下、ピッグ・ボーダインが立っていた。シンディに言わせれば、ピッグは「海軍の制服を着た類人猿」だ。その男は勝手に掃海艇から抜け出し、駅の駐車場から盗んだ車に乗ってデニスを訪ねてきた。

 シンディはこの男を七年前から、吐き気を催すほど毛嫌いしている。シンディは新婚旅行をふいにした忌まわしい過去があるからだ。ピッグがデニスを勝手に連れ出し、二週間もふらふら飲み歩いた。そんなわけで、シンディは怒髪天を衝き、デニス、ロッコ、ピッグの三人を家から叩き出す・・・というプロット。


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 ピンチョンが明かすには、ピッグ・ボーダインのモデルなる人物に出会ったのは、海軍時代だった。噂でしか聞いていなかった人物なのに、初めて出会った瞬間、「ESP体験」のごとく、すぐに「彼」だと理解した。ピンチョンはピッグに対して得体の知れないシンパシーを抱いていて、「以来この人物を1、2回長編小説に入れたくらいで、今もピッグ・ボーダインが大好きだ。」と語っている。

 未読だが、『V』には、ピッグ・ボーダインが下卑(げび)た笑い声をあげるシーンが登場する。サイテー醜悪な絵。ワイアットはその心象を膨らませて「Pig」の猥雑な詞を書いたのか。

 以下、友人のNTさんからの情報・・・『Esther's Nose Job』については、ブライアン・.ホッパー(Brian Hopper)が、次のように語っています。「1963年にマイク・ラトリッジからピンチョンの『V』について教えてもらった。あの小説は芸術全般だけでなく、音楽的成長の面でも、僕らにヒントを与えてくれた。」なるほど、『Esther's Nose Job』組曲の骨格を作ったのはラトリッジというわけだ。

 とすれば、『Volume Two』は、『Rivmic Melodies』組曲を擁したA面がワイアット・サイド。『Esther's Nose Job』組曲を配したB面がラトリッジ・サイドと言えるだろう。『Volume Two』は、ワイアットとラトリッジの二人でパイを奪い合っていたというわけだ。

※ただし「Dedicated To You, But You Weren't Listening」はヒュー・ホッパーが主導した曲


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 NTさんの言葉を続ける。「(Canterburied Soundsに収録された)『Esther's Nose Job』の69年1月ホーム・デモ(背景でTVの音が聞こえる)はインストなので、「Pig」の歌詞は後にワイアットが添えたのでしょうか。ただし、クレジット上はラトリッジのみの名義になっています。」(一部改変)

 その後『Esther's Nose Job』は歌詞を削り、セプテットのための壮大なジャズ・スコアに書き換えられる。これがBBCで放送されたのが1969年11月29日。リアル・タイムで聞き逃したフォロワーたちは、あの『トリプル・エコー』(Tripple Echo)を待って、ようやく『Esther's Nose Job』のライヴ(C2)を追体験した。

※Tripple Echo; a three-record anthology, Harvest Records, 1977
※D1「Mousetrap / Noisette / Backwards / Mousetrap Reprise」も同じフォーマットでの演奏
※演奏;Playhouse Theatre(10/11/69)/ 放送;Top Gear(29/11/69)

 69年10月以降、『Esther's Nose Job』には、後に『5』に収録される「Pigling Bland」(こぶたのピグリン・ブランド)が挿入されるようになる。このあたりの経緯は気になるところだ。一体、ソフツはどこに向かって突っ走っていたのか。

※Pigling Blandはピーター・ラビットに登場する豚キャラ


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<Live At The Proms 1970>

 『トリプル・エコー』くらいしかソフツのライヴに触れるチャンスがなかった当時の私。そんな私に、1988年になってようやく福音がもたらされた。それが『Live At The Proms 1970』。リリースはインディペンダント系のレックレス・レコード(Reckless Records)。わっはっは。でかしたぞ!ほめてつかわそう。

 『Esther's Nose Job』に関して言えば、『Volume Two』のラインナップから、まず冒頭の「Fire Engine Passing With Bells Clanging」をカットし、次に「Orange Skin Food」と「10.30 Returns to the Bedroom」の間に、新たに「Pigling Bland」を挿入した構成。

 収録場所はWestminster, London(1970 Aug 13)BBC Radio3 。『サード』の収録時期(April-May 1970/リリースはJune 6th 1970)と近接していることもあり、演奏自体には意外性や変則性はない。が、この音源に触れた当時、まさに天啓に触れる思いがした。

 2007年、Sony BMGによる『サード』再発盤のボーナス・ディスクに、なんと本作の全曲が添えられてリリースされた。バナナの叩き売りである。『Live At The Proms 1970』のアルバムとしての価値は、今となっては、もはや別のところにあると言えるだろう。おあとがよろしいようで。


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Elton Dean - Alto Saxophone, Saxello
Hugh Hopper - Bass
Robert Wyatt - Drums, Voice
Mike Ratledge - Keyboards





 さて、後編では、一体「Esther's Nose Job」とは何なのか、について触れたいと思います。それではまた。
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第80話  Soft Machine 『Noisette』 (1970) U.K.

今夜の一曲 Esther's Nose Job (前編)


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 2000年、キュニフォーム・レコード。まさに脳天にくさび(Cuneiform;くさび形の)を打ち込まれるような衝撃。この発掘モノは、ただ者じゃない。サイケ・ポップな重要作『Volume Two』からジャズ・ロック『Third』の中間期にレコーディングされた、センセーショナルなドキュメンタリー。極私的にはピュリッツァー賞かピーボディ賞ものの殊勲だ。収録場所はFairfield Hall, Croydon, England(1970年1月4日)。

 何が貴重かと言って、セプテットからNick Evans, Marc Charigが抜けたクインテットというレアな編成。Ratledge, Wyatt, Hopperのクラシック・トリオにElton DeanとLyn Dobsonの二管を加えた珍しいコンボ。DobsonのRoland Kirkを意識したプレイ、熱のこもったフルートとかスキャットだってぶっ飛んでる。

 『Third』に収められた「Facelift」を収録したのも、このコンサートだ。Kevin Ayers作の「We Did It Again」を含め、初期作をこのジャズ・フォーマットでバトルしたり、未発表曲をアグレッシヴに次々に繰り出す凄絶な白熱教室。やわな私は、幾度となく悶絶して緊急外来に担ぎ込まれたものだ。


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 さて、『エスターズ・ノーズ・ジョブ』(Esther's Nose Job)。あまりに謎に満ちた曲で、一切の解釈を拒絶する勢い。これは、もうお手上げ状態。私も含め、このタイトルを聴く人の中で、トマス・ピンチョン(Thomas Pynchon)の『V』(1963)を読んだことのある人は、そう多くはないはず。そうした意味では、本当にこの組曲を理解している人は限られているかも。

 いや、『V』を読み終えたからこそ、かえって脳内のシナプスが混線してしまった人も多いと思う。そもそも、『Esther's Nose Job』は、ピンチョンの小説『V』の第四章から引用されている。その点に触れる前に、ソフツの組曲についてざっと復習しておきたい。

 この曲の元歌は『Volume Two』(1969)のB面に収められたジャズ・ロック組曲だった。にしても、不思議に組曲名のクレジットがあるのは米国盤だけだったのはどうして?

 謎めいているのは、『Esther's Nose Job』がB面全体にタイトルされているくせ、コンサートでの演目から判断すると、その『Esther's Nose Job』組曲はB①②の「As Long as He Lies Perfectly Still」「Dedicated to You But You Weren't Listening」を除いたB③からのパートを意味するらしい。


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 組曲は「Fire Engine Passing with Bells Clanging」を皮切りに怒濤の勢いで燃え広がり、「10:30 Returns to the Bedroom」をもって燃え尽きて灰になる。

 この組曲がどうして『Esther's Nose Job』というタイトルなのか。その謎を解くヒントはなさそうに思えた。というのも、歌詞が添えられているのは「ピッグ」(Pig)のみであり、その歌詞とピンチョンとの接点は全く見えてこないからだ。

 マイク・ラトリッジ作曲、「Pig」は、ロバート・ワイアットの歌声が冴える、お得意の卑猥な歌もので、「Moon In June」に通じる猥雑さ。一聴して「なんじゃこりゃー」なのが、ワイアットの破天荒な歌い方だ。この譜割りを全く気にかけない歌い方は、はじけまくってる。

 ワイアットはドラマーなので、リズム・キープの何たるかは、わきまえているはず。振り返ってみても、彼はジミヘンとのUSツアーを終えたあと、一人ロサンゼルスやニューヨークに引きこもっていた。そこで、多重録音による『Rivmic Melodies』を、鋭意クリエイトする作業にひたすらいそしんだ。


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 マルチ・トラッキングというのは当然、他のパートとの間合いを測りながら各パートをレイヤリングしていかねばならない。ベーシック・テンポをクリック音でドンカマしていたのか、それとも、他の手法でジャストなテンポをキープしたのか、いずれにしても彼はリズム割の才覚ある鬼才のはず。

 それが、あの唱法なのだからミステリー。ラリって歌った可能性は否定しきれないが、案外覚醒した意識で無意識な美しい混沌を狙ったのかもしれない。

 いずれにしても、このダダっぽさを美学(美楽)に感じさせるところがワイアットの魔法なのだろう。加えてラトリッジの猛り狂うオルガンやホッパーの重厚なファズ・ベースが絡めば「錬金術」もきわまれりである。

 まぁ、そんなわけで今夜もまた眠れないわけですね(笑)

 さて、次回はその「Pig」に切り込むつもりですが、せいぜい返り討ちにあうのが関の山かも。(涙;)

Elton Dean - Alto Sax, Saxello
Lyn Dobson - Flute, Soprano Sax, Vocals
Hugh Hopper Bass, Electric Bass
Mike Ratledge - Organ, Electric Piano
Robert Wyatt - Drums, Vocals

テーマ : サイケデリック
ジャンル : 音楽

ソフト・マシーンの深淵!?

「ソフト・マシーンの深淵」と書きましたが、底なし沼かもですね。
何をトチ狂ったか、トマス・ピンチョンを読み始めましたが、めまいがしそうです。

オビにあるように、こういうのが果たしてポップなのでしょうか。
アンディ・ウォーホールのポップさとは全く次元が違うような・・・(笑)
謎の巨匠という肩書きがコワイですね。いえいえ、カワユイですね。

取りあえず、ピンチョン読まないと第80話書けない設定になってましたが、
ここは諦めてリセットしてみます。
こまった人ですね、マイク・ラトリッジ君。
ロバート・ワイアット君以上に世界持ってたりしてね。

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ピンチョンの短編『スロー・ラーナー』読み終えましたが、さっそくフランク・ザッパ出てきました~。
『少量の雨』にはレスター・ヤングやジェリー・マリガンが出てくるし、
アンブローズ・ビアスやT.S.エリオットが突然、引用されます。
私のように、英米文学に明るくない人は、表面的な理解にとどまるんで、面白みが半減してしまいます。
大変だっ。
ま、とにかく・・・

皆さん、近々お会いしましょ。多分・・・(涙;)


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テーマ : 音楽のある生活
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第79話  The Dream 『Get Dreamy』 (1967) Norway

今夜の一曲 Night Of The Lonely Organist And His Mysterious Pals


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 テリエ・リピダル(Terje Rypdal)がらみでたどり着いたノルウェイのアシッド・ロック・バンドだが、これが調べれば調べるほどに面白い。ノルウェイ発、サイケデリック・アンダーグラウンド、ザ・ドリーム(The Dream)。バンド・メンバーには1968年以降、あのヤン・ガルバレク(Sax, Fl)(Jan Garbarek)も、その名を連ねているし。

 この曲はテルミン風のSEに導かれるアップ・ビート・ジャムだが、このグルーヴィーさはブッカー・T(Booker T. & the M.G.'s)みたいで痛快だ。アルバム全体の指向性はプロコル・ハルム(Procol Harum)だったり、ブライアン・オーガー(Brian Auger)だったり。はたまたラスカルズ風、ジミヘン風に迫るかと思えば、レイドバック・ソウルやジャズの表情すら垣間見せる。そこに必殺、サイケ風味を散らせば一丁上がりっ!である。

 演奏とか三人で分け合っているヴォーカルは、とても完璧とはほど遠い。だが、この説明つかない不思議な魅力は何なんだ。やりたいことをひたすら詰め込んで面白がっているところも何だか憎めない。このアルバムに整合性とか首尾一貫を求めるのは意味がなかろう。まさに破天荒な60s末の空気をたっぷり詰め込んだおもちゃ箱のようなアルバムだ。1967年、スカンジナビアからの一撃。


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 本作『Get Dreamy』はノルウェイのポリドールからリリースされた。テリエ・リピダル(g)は後にECMの連作で才能を開花させていく。クリスチャン・レイム(Christian Reim)(org)は後年、ジャズ畑での活動で名を馳せる。

 アルバム収録の「Hey Jimi」は、ジミ・ヘンドリクスの「Hey Joe」へのトリビュートだが、これについては盛りの良い話を聞いた。テリエが後年のインタビューで明かしたのだが、彼は『Get Dreamy』をジミヘン本人に贈ったというのだ。

 実は、テリエのガールフレンドが、ジミのガールフレンドの一人と知り合いだった。テリエは自らのサイン・レコードに「トリビュート」であることを明記してジミにプレゼントした。


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 ジミの死後、ジミのロンドンのレコード・コレクションの一部を購入したマニア氏が、そのサインLPを発見。で、テリエのエージェントにFaxを入れたそうな。喜色満面のテリエは折り返し、氏に電話を入れる。マニア氏は「『Get Dreamy』には確かにジミが聞き込んだ痕がありますよ!」と伝えた。

 ザ・ドリームがジミヘンにインスパイヤされて結成されたという事実を考えれば、彼らはこの知らせを天にも昇るような面持ちで聞いたのではなかろうか(出典「Norwegian Legend Terje Rypdal」by Barry Cleveland / SearchGuitarplayer.com 2014年1月30日のインタビュー)。

 そうこうするうち、な・な・なんと、そのマニア氏の投稿(Recordmecca - Fine Music Collectibles - June 19th, 2010)を発見してしまいましたよ、わたくし。その投稿者はオークションに出された21枚のジミヘンのレコード・ライブラリーを見事射止めた。オークションはジミのガールフレンドであるキャシー・エッチンガム(Kathy Etchingham)の委託だった。


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 マニア氏はFEDEXの小包を震える手で開ける。そこにはロンドン・イヤーズのジミが浴びた音楽的影響の一端がそのまま封じ込められていた。ブルースものを中心に、ディラン(Bob Dylan)、ラヴィ・シャンカール(Ravi Shankar)、ビートルズ(The Beatles)のサージェント、ジェームス・ブラウン(James Brown)、ローランド・カーク(The Roland Kirk Quartet)、ウェス・モンゴメリ(Wes Montgomery)などのジャズ・タイトルの数々。

 ディランのアルバム『Bob Dylan's Greatest Hits』にはジミによるサイケな落書き、『Highway 61 Revisited』にはワイン・グラスを割ってしまった時のジミの血の跡まで残っていたと言う生々しさ。


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 その小包には、我がザ・ドリームの『Get Dreamy』も含まれていた。「Hey Jimi」は、ジミに対する最初期のトリビュートということになる。「Hey Joe」は1966年12月のシングル・リリースだったから。

 問題は、ジャケ裏のメッセージだった。それはテリエの直筆だった。「あなたに敬意を表して"Hey Jimi"を書きました。他の曲も気に入ってくれるとうれしいです。」とある。これにはマニア氏も驚いた。テリエの名とジミの名でググってみた。すると、テリエが生前のジミに『Get Dreamy』を贈っていたことを知る。2005年のことである。

 そこで、テリエのマネージャのメアドに連絡を取った。折り返し、テリエから「ジミが実際にアルバムを手にしたことがわかって嬉しい。」というメッセージが返ってきた。さらにテリエは「もし、それを売却するようなことがあったら、是非とも最初に私にメール下さい。」とも言ってきたそうだ。勿論、売却することはなかったようだが・・・


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 さてさて、吠えるオルガン、ワイルドなファズ・ギター、テープの逆回転、ソウルフルなヴォーカル、キャッチーなホーン、ドリーミーなフルート、チープなSE。どこを切り取ってもキッチュな魅力が満載・・・こうしてきめゼリフを並べあげると、悪徳商人になった気分になる。しかし、この怪しさこそザ・ドリームの魅力そのもの、と居直る私。

 これを聴いた友人(NTさん)は次のように言っている。「1967年のノルウェーでこのサウンドは、ベスト・サイケでは済まされない驚異的脅威(!)を感じます。ディスク・ユニオンによると、一昨年LPのみ600枚再発されたということですが、CD化はないのでしょうか。」

 確かめてみると、それはサイケ専門レーベルのシャドックス(Shadoks)から再発されたLP(Shadoks 151; 600 numbered / 180g pressing / heavy sleeve / big poster - insert)のことだった。今世紀になってからはCDも再発されていることも判明。

 また、友人(CMさん)は「これはかっこいい!でも、北欧というよりブリティッシュな匂い。アグリー・カスタード(Ugly custard) とか思い出しました。これのCD見た覚えありますよ。」と。

 テリエは、ザ・ドリームでの経験をもとに、満を持してソロ作『Bleak House』(1968)の制作に突入する。

<第68話  Terje Rypdal  『Bleak House』へ>

Terje Rypdal - guitar & vocals
Christian Reim - piano, organ & vocals
Tom Karlsen - percussion & vocals
Hans Marius Stormoen - bass & vocals



さて、次回は再びソフト・マシーンの深淵へ。

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第78話  Banco Del Mutuo Soccorso 『自由への扉』(Io Sono Nato Libero)(1973)Italy

今夜の一曲 「政治犯罪者の歌」(Canto Nomade Per Un Prigioniero Politico)


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<スリーヴ写真の謎>

 ようやく、スリーヴ写真の目玉の正体が解けたぞっ!故フランチェスコ・ディ・ジャコモ様の目玉だったんだ。ありがたい、ありがたい。で、写真の扉は写真家チェザーレ・モンティ(Cesare Monti)が、ミラノのラヴァンダイ(Lavandai)の路地で見つけ出した。

 今じゃありえないけど、現地の撮影許可を取るわけでなく、バンコのメンバーを伴って、いきなり現地でのロケを敢行したって書いてある。扉から小さく顔と手だけのぞいてるのはロドルフォ・マルテーゼ(サン・ディエゴ在住)だったんだ。お茶目さんですねっ。

 ご参考までに、どうやって答を見つけたかと言うと、もともとはLinkiesta.itから辿っていって、チェザーレ・モンティのブログ(il blog di Cesare Monti)を発見!チェザーレと言えば、イタリアン・ロックでは重要アーチストですね。『自由への扉』をはじめ、彼の担当したジャケを前にすれば、あなたはきっと失神してしまうでしょう。

 一例をあげると、マクソフォーネ(Maxophone)、サンジュリアーノの『テイク・オフ』(Sangiuliano)、バンコの『最後の晩餐』(Come in un'ultima cena)、チェルベッロの『メロス』(Cervello)、アンジェロ・ブランデュアルディ(Angelo Branduardi)、アルベロモトーレ(Alberomotore)、カンツォニエーレ・デル・ラツィオ(Canzoniere del Lazio)・・・あれれ、反応もなく静かだと思ったら、もう皆さん既に気絶なさってるんですね。


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<政治犯罪者の歌>

 キングのユーロピアン・ロック・コレクション Part II。初めて耳にした異国情緒あふれる洪水のようなサウンド。英米の音に慣れ親しんできた私は、この何物にも似ていない独創性に満ちたサウンドに完全にノックアウトされた。

 勿論、注意深く聴いてみると、英国のプログレ・アーチストたちの存在なくして彼らが誕生することは決してなかった。YesやELP、Gentle Giantなど、実によく研究している。その上で彼ら独自のイタリア的叙情がコーティングされている。

 ノチェンツィ(Vittorio & Gianni Nocenzi)兄弟の重厚なキーボードのレイヤーは圧倒的で、そのオーケストレーションは広大無辺だ。表層的な理解かもしれないが、当時は一聴してPink Floydの『原子心母』(Atom Heart Mother)や、Moody Bluesのサウンドが頭に浮かんだ。


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 だが、これはバンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソ(Banco Del Mutuo Soccorso)の身に染みついたクラシックの素養と言うべきだろう。ここにフランチェスコ(Francesco Di Giacomo)のオペラチック・テノールが乗ると、まさに彼らの独壇場とも言えるクリエイティブな世界が現れる。

 どこまでがマルチェロ・トダーロ(Marcello Todaro)のギターで、どれがゲスト参加のロドルフォ・マルテーゼ(Rodolfo Maltese)のギターかは不明だが、4th『イタリアの輝き~バンコ登場』(Banco)(1975)以降、ギタリストが交代している。ゲスト参加の二人のパーカッショニストも曲の魅力を引き立たせる。曲中での緩急の付け方は自由自在。テンポ・チェンジに伴ってムードが一変する様は神業としか言いようがない。

 アコースティック楽器とエレクトリック楽器が巧みに融合しているのも神技と言えよう。複雑な曲構成だが、それを感じさせないのも不思議。とにかく、終始むせかえるようなイタリアの叙情に包まれていて、めまいがしそうだ。クラシカルでありながらロック的で、美しいテンションで塗り固められた1973年不朽の名作。


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 さて、今回取り上げたサード『自由への扉』(Io Sono Nato Libero)のアルバム・タイトルだが、これはA①「政治犯罪者の歌」(Canto Nomade Per Un Prigioniero Politico)の歌詞からの引用だ。英語に直せば I Am Born Free. とでもなろうか。日本語のタイトルの「政治犯罪者の歌」だが、原題のNomade(遊牧民の)の部分を訳しきれていない点を指摘しておこう。翻訳という作業は実に難しい。

 この曲はアルバムの核心部だろう。為政者にとって政治的に危険思想を持つ人物を刑務所に投獄する、という構図は特段珍しい事ではない。後のヴィットリオ・ノチェンツィ(Vittorio Nocenzi)のインタビューによると、この曲はチリの絶望的な政治的混迷を念頭に歌詞が書かれた。1970年、アジェンデ(Salvador Allende)による社会主義政権が成立する。だが、CIAの横やりでチリの社会はカオス状態に陥ってしまう。

 米国はドミノ理論を恐れた。チリの混乱が中南米や南アフリカを始めとする第三世界に波及することを危惧したのだ。こうした中で、米国が後押しするピノチェト(Augusto Pinochet)を首謀者としたクーデタが勃発。


Banco porta 3


 かくして1973年、チリに軍事独裁政権が成立する。そして左翼思想を持った人物は危険人物と見なされ、投獄されたり、監禁されて拷問を受けた。カリブ海諸国をはじめとする中米や南米は、米国にとっては裏庭(backyard)そのものだ。米国政権にとっては最大の関心事。CIAが小国の政情に目くじら立てるのも無理からぬことだった。

 こうした、時の為政者による粛正や蹂躙は、隣国ブラジルでも同様だった。ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)やカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)らのミュージシャン達は、逮捕された挙げ句にロンドンへと国外追放となる。

 こうした状況がメタファ(暗喩)としてもシミリ(直喩)としても登場するのが、この曲「政治犯罪者の歌」だろう。それだけでなく、アルバム収録のそこかしこにヴィットリオのメッセージが織り込まれている。


Banco porta 4


 「この独房は私の失望でいっぱいだ」「思想を理由に投獄しても、その思想を封じ込めることはできない」「たとえ拷問を受けても私の思想は自由だ」「私は生まれながらに自由を享受する身」「邪魔しないでくれ、私は空を飛んでいる夢を見てるんだ」「やつらは私がさげすむ戦争を正当なものだと言っている」「私の勇気ある行動はこの泥の中から始まるのだ」・・・

 自由への希望を捨てず、遊牧民の馬のように荒野を駆け巡り、鳥のように大空を飛翔することを夢見て・・・。そんな自由への希求の念が歌の端々からにじみ出る佳曲。偏狭な教義や、人為的な国境線、民族の血の呪縛から逃れられない人々が、世界にいかに多いことか。そんな定めを嘆く声は為政者には届かない。とめどなく繰り返される流血はごめんである。

 2015年。明けましておめでとうございます。苦境に立つ声なき人々に、あまねく幸せが届きますように。


Banco porta 5


- Vittorio Nocenzi / organ, harpischord, synths
- Gianni Nocenzi / piano, keyboards
- Marcello Todaro / electric and acoustic guitars
- Renato D'Angelo / bass, acoustic guitar
- Pier Luigi Calderoni / drums, percussion
- Francesco Di Giacomo / vocals

Plus +
- Rodolfo Maltese / acoustic and electric guitars
- Silvana Aliotta / percussion
- Bruno Perosa / percussion


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 さて、新春第二弾は北欧でサイケ三昧です

テーマ : プログレ
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ticca

Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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