第108話 Dando Shaft 『An Evening With....Dando Shaft』 (1970) U.K.

今夜の一曲  Rain


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こちらは、1970年のファースト・アルバムから。木漏れ日系の英国フォークという単純なくくりでは説明しきれない不思議な魅力。複雑な曲構成。テッド・ケイ(Ted Kay)のパーカッションにマーティン・ジェンキンス(Martin Jenkins)のギターやマンドリンが絡めば、なすすべもなく波間に浮かぶクラゲ状態。

彼らのデビュー作は1970年、ヤング・ブラッド(Young Blood)から発売されました。(米国ではUS Deccaから)プロデュースはミキ・ダロン(Miki Dallon)、セピア調の写真、デザインはフォーカルグラフィック(Focalgraphic)。

ネオンからリリースされたセカンドと並び、こちらも捨てがたい。あの独特のアコースティック・サウンドをとろとろ聞いていると、世捨て人街道まっしぐらである。

インドの民族楽器を使っていても、ラーガ・ロックになりきらず、あくまでもはかない英国フォークの文脈にあるのが奇蹟的。この独特の浮遊感は何なんでしょうね。


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グループ結成は1969年。フェアポート・コンヴェンション(Fairport Convention)やペンタングル(Pentangle)の影響の下にあることは一聴瞭然ですが、それにとどまらぬチャームポイントがある。

このグループ、仕掛け人はマンドリン、フィドル、フルート、ギター、作曲等を担当するマルチ・プレーヤーのマーティン・ジェンキンス。ここには、ポリー・ボルトン(Polly Bolton)はいませんが、それがゆえに催眠系の翳(かげ)りある音像が際立ち、中毒症状が懸念されます。これでポリーがいたら、まさに幽体離脱の世界でしょうか。

ファースト以降、女性ヴォーカルを導入したかったマーティン・ジェンキンスと、音楽活動の幅を広げる事を望んだポリー・ボルトン(Polly Bolton)の思惑が一致し、ポリーの加入が決まりました。


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ポリーが参加した次作は、従来のまどろむような催眠ソングに、つややかな色合いを添えることに成功します。

同時代に活躍したジャッキー・マクシー(Jacqui McShee)やマディ・プライヤー(Maddy Prior)、サンディ・デニー(Sanddy Denny)、シャーリー・コリンズ(Shirley Collins)(※)といった歌姫に比べても、決して劣らぬ素敵な歌声。もちろん、ポリー不在の本作にも十分に色あせない魅力を感じます。

※順にPentangle、Steeleye Span、Faiport Convention/Fotheringay、 Albion Country Bandなどで活動。


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ところで、バンド名のDando Shaftの由来は何でしょうか。バンド名は、どうやら1965年に刊行された小説の主人公の名前のようです。著者はドン・カルフーン(Don Calhoun)。

主人公ダンドー・シャフト(Dando Shaft)は、中年の有能なコピー・ライター。ウィラード・ジョーンズ社(the Madison Avenue ad agency Willard Jones)に勤務していました。

けれども、冴えない家庭生活と仕事にうんざりする日々。そんな折、彼はある企てを思いつきます。それは「みんなの百万長者(Everybody's Millionaire)」として、人々の注目を浴びる生活を送ることでした。


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彼はNew York Daily News紙に$3,000かけて、寄付金募集の全面広告を打ちます。みるみるうちに寄付金が集まり、彼は夢のセレブな生活を享受します。しかし・・・(筆者未読につき)

Don Calhoun一流の、米国のセレブ社会への風刺が冴えたこの小説。マーティン・ジェンキンスは、どんな思いでこの主人公の名前をバンド名にしたのでしょう。主人公の生きざまに感銘を受けたのでしょうか。それとも著者自身へのオマージュなのでしょうか?

何だか意味ありげですが、実は、そのどちらでもなさそうです。後年のマーティン・ジェンキンスのインタビューによると、別に筆者や小説中のキャラに触発されたわけでもなく、ただ単にDando Shaftの響きが良かったから・・・だそうです。


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マーティン・ジェンキンスによれば「当時は小説とかにちなんでバンド名をつけるのが流行ったしね。」とか。なるほど。ソフト・マシーン(Soft Machine)やスティーリー・ダン(Steely Dan)もウィリアム・バロウズ(William Burroughs)の小説から採名されました。

あ、そうそう、バンド名のDando Shaftは、日本ではダンドゥ・シャフトと表記&発音されているようです。ちなみに、ネット動画で「September Wine」のBBCトランスクリプションを耳にしたのですが、ダンドー・シャフトって言っています。

「ダンドゥ」も「ダンドー」も誤差の範ちゅうかもしれません。ただし、間違って「ドーダン」などと言ってしまっては言語ドーダンかもしれませんね。(どうやら不発弾^^;)


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Martin Jenkins - vocal, mandoline, violin, flute
Dave Cooper - guitar, vocal
Kevin Dempsey - guitar, vocal, bass
Roger Bullen - bass
Ted Kay - percussion


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テーマ : サイケデリック
ジャンル : 音楽

第107話 Dando Shaft 『Dando Shaft』 (1971) U.K.

今夜の一曲  River Boat


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<美女と回転木馬?>

ポリー・ボルトン(Polly Bolton)が加入して、ミスティックな魅力が増したセカンド・アルバム(1971年)。プロデュースはデビュー作同様、ミキ・ダロン(Miki Dallon)。

ファーストはヤング・ブラッド(Young Blood)からのリリースでした。そして、こちらはネオンからのリリース、と聞けば期待を裏切らないキーフ(Keef)のカバー・デザイン。

ネオン・レーベルはRCA傘下の実験的レーベルでした。たった11枚のカタログながら、その大半がKeefによるジャケット、というのがマニアを唸らせる。このセカンドも、廃棄された回転木馬に斜光線が射している、何とも言えぬデザインなんです。

スリーヴ・デザインに関して、友人のCMさんが面白い指摘をしてくれました。写真のヴァーティゴ(Vertigo)のサンプラー『The Vertigo Anual 1970』をご覧あれ。


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スリーヴの木馬に注目です。実は、『Dando Shaft』も『The Vertigo Annual 1970』も、共にKeefによるデザインです。この木馬、似ていませんか?というわけで、「木馬の使い回し疑惑」です(笑)。

さらに言うならば、『ヴァーティゴ・アニュアル』の木馬上の脱力系女性モデルは、NEONのフェアウェザー(Fair Weather)『Beginning from an end』(1971)のスリーヴ・モデルと酷似してるというのです。なるほどっ! 勿論、こちらもKeefによるデザインです。というわけで、「脱力系女性モデル使い回し疑惑」です。


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CMさんは、さらにオーストラリア盤のVERTIGOサンプラー『The Vertigo Trip』(1971)を持ち出してきました。こちらも木馬と女性。CMさんの本職は「木馬と女性」研究家なのでしょうか(笑)。

しかし、こりゃまたヤバい。ヤバいというかケバい。でも、デザインはKeefならぬ、イアン・ブラウン(Ian Brown)。みなさん「キーフ」じゃなきゃ「イヤン」というのが本音でしょうか(笑)? ※豪ドルで$5.50で発売。NZでもリリース。


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それにしても、オーストラリアのヴァーティゴ盤に、こんなコンピレ・サンプラーがあるとは初耳。ジャケットの女性がKeefと異なって、品格に欠けるのがイマイチですが、アルバム自体、思いのほか徹底的に凝ったつくりです。知性というより痴性という感じの内ジャケや、サービス満点、特大のフォールド・アウト・ポスターなど、かなりキてます。

popsikeには311GPB(\58,928)というebayでのオークション歴が残ってます(2008.12.19)。目の毒(薬)ですね。

この『ヴァーティゴ・トリップ』は、サンプラーの中でもかなりレアものらしい。収録曲が本家サンプラー(『The Vertigo Annual 1970』)よりもいい、という人もいますが、これは好みの問題でしょうか。


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『The Vertigo Annual 1970』(1970)U.K.
Black Sabbath, May Blitz, Nucleus, Magna Carta, Colosseum, Rod Stewart, Jimmy Campbel, Juicy Lucy, Fairfield Parlour, Affinity, Gracious, Cressida, Manfred Mann Chapter Three, Bob Downes, Dr. Strangely Strange, Uriah Heep 全16曲

『The Vertigo Trip』(1971)Australia
Black Sabbath, May Blitz, Nucleus, Magna Carta, Catapilla, The Keith Tippett Group, Nirvana, Warhorse, Legend, Ian Matthews, Clear Blue Sky, Daddy Longlegs, Graham Bond, Gravy Train, Beggar's Opera, Patto, Gentle Giant, 17曲

このサンプラー2枚組2種、発売年は1970、1971とほぼ同時期ですが、選曲はかなり異なっています。共通なのは、サバス、メイブリ、ニュークリ、マグカルの4アーチストのみ。その他のメンツを見ていると思わずニヤリ。

何か意図するところがあるのかも知れませんが、イギリスとオーストラリアの嗜好の違いのあらわれ、と捉えるのも面白いですね。




Martin Jenkins - mandocello, flute, violin, vocals
Kevin Dempsey - guitar, vocals
Ted Kay - percussion
Roger Bullen - bass
Dave Cooper - guitar, vocals
Polly Bolton - vocals

テーマ : プログレ
ジャンル : 音楽

第106話 Johnny Mathis  『Heavenly』 (1959) US

今夜の一曲  Misty


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週末の夜を一人寂しく過ごすあなたに贈る、珠玉のジャズ・スタンダード・ナンバー。え? ほっとけって?

さて、気を取り直して「ミスティ」です。作曲は、第49話で取り上げたエロール・ガーナー(Erroll Louis Garner)(1954)。

ガーナーは左利きだったこともあり、ビハインド・ザ・ビート(※)と呼ばれる独特のスウィング感を生み出した事でも知られています。この両手のコンビネーションは強烈かつ完璧ゆえ、トリオを越える大がかりな編成を必要としなかったとさえ言われています。

※His Swing-meets-Bop style is immediately recognizable - complex introduction segue into a rhythm play between left and right hands, the right hand playing "behind the beat" set by the left. (Harlem Jazz Adventures: A European Baron's Memoir, 1934-1969, By Timme Rosenkrantz, Fradley Hamilton Garner)
※左手のビートに遅れ気味に右手の演奏を展開させることで独特のタイム感と揺らぎを産み出していく。


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ハモンド(B-3)の名手、ジミー・スミス(Jimmy Smith)は繰り返し、エロール・ガーナーのキーボード・アプローチをオルガンに応用することで、オルガン奏法に革新をもたらすことに成功したと語っています。(出典;Harlem Jazz Adventures)

また、ガーナーは楽譜が読めなかったとも伝えられていますが、優れた音感や耳覚えの良さで、それが全く弱点と感じられないほど、存分に天才ぶりを発揮しました。

即興も得意とし、一日で三枚のアルバムを録音して、それが全てワン・テイクだったという武勇伝すらあります。ガーナーはアート・テイタム(Art Tatum)の後任として脚光を浴び、23歳にしてチャーリー・パーカー(Charlie Parker)と共演するという栄誉に預かりました。


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ニューヨークからボストンに向かう飛行機の窓から見た霧の印象を、ピアノで華麗に歌い上げたのが「ミスティ」だと言われています。そのガーナーのオリジナルは、1955年にジョニー・バーク(Johnny Burke)(※)の詞を得て、ロマンチックなラブ・ソングに生まれ変わりました。

(※)米国生まれの作詞家。1920年代から50年代にかけて活躍。作曲家ジミー・ヴァン・ヒューゼン(Jimmy van Heusen)とのコラボ等で名作を残した。代表作は"Swinging on a Star" "It Could Happen to You" "But Beautiful" "Here's That Rainy Day" "To See You Is to Love You" "Suddenly It's Spring" "Like Someone in Love"


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1959年、ジョニー・マティス(Johnny Mathis)がこの曲を歌い、大ヒットとなります。『Heavenly』に収められた「ミスティ」は、US Pop Chart Singleで最高12位を記録します。マティス自身もピアノの名手だったそうです。

さて、そのマティス。彼には陸上の世界でオリンピック代表選手(高跳び)をめざす、という夢がありました。しかし、父のアドバイスもあり、歌手になるという夢を追う決断に身をゆだねます。それが大当たり。

1957年にはデビュー曲を録音。これが何と、あのマイルス・デイビス(Miles Davis)のプロデューサーとして有名なテオ・マセロ(Teo Macero)指揮のオケをバックに歌う栄誉を得ています。


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これを皮切りに、マティスはヒットを連発。その一つが、この「ミスティ」というわけです。その後、ミスティは多くの歌手によって歌い継がれます。一例をあげると、1959年にはエラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)やサラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)。1960年には、アンディ・ウィリアムス(Andy Williams)やフランク・シナトラ(Frank Sinatra)。

「ミスティ」は名実共に、不滅のジャズ・スタンダードとなった感があります。そして、ジョニー・マティスもまた、全米を代表するポップス&ジャズ・シンガーとしての地位を確立しました。彼にはフィリー・ソウル(Philadelphia Soul)を歌った名盤もあって楽しめます。

歴代の米国大統領たち(※)も彼の音楽に親しんだという話ですが、セレブのみならず、市井の人々にこそ語り継がれるべきシンガーでしょう。

※レーガン大統領、クリントン大統領、チャールス皇太子、故ダイアナ妃の前で歌を披露した。President (Reagan, Clinton) / Royalty (Prince Charles, Princess Diana)

特に「ミスティ」は歌詞も素晴らしい逸品。このメロメロソング、恋するカップルには、たまらない贈り物でしょう。そんなわけで週末をお一人で過ごされる方々も、年末には素敵なクリスマスを過ごされることを心より祈っています。え? ほっとけって?








さて、次回はキーフのジャケットが飾るネオンレーベルの某アーチストです。

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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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