第119話 Phil Manzanera / 801 『Listen Now』 (1977)

今夜の一曲  Island


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<三杯目> ブライアン・イーノの巻

さて、フィル・マンザネラはもともとジミ・ヘンドリクスに影響を受けてギタリストを目指しましたが、ロキシー・ミュージック(Roxy Music)に加入する以前は、クワイエット・サン(Quiet Sun)のメンバーとして活動していました。

ロキシーがギタリストを募集したメロディ・メーカー(Melody Maker)誌を見て応募を決めたフィルですが、手を上げたギタリスト候補は20名。結局、当選したのはナイス(The Nice)での活動で知られるデビッド・オリスト(David O'List)。フィル・マンザネラはロキシーのローディーとして活動することになりました。

しかし、オリストの脱退に伴って、フィルの昇格が決まります。本作に参加したメンバーたちは、ロキシー組やクワイエット・サン組など、豪華なメンツが顔を揃えています。


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面白いのは、ロキシーをクビになったイーノ(Eno)と、ロキシーに新しく抜擢されたエディ・ジョブソン(Eddie Jobson)の名前が並んでいることです。これは801がクレジットされたスタジオ作『リッスン・ナウ』でも顕著です。

二人が競演しているナンバーは「Flight 19」「Island」「Postcard Love」など。エディはフェンダー・ローズのエレピやアコピ。またイーノは、シンセやギター・トリートメントにクレジットされています。

これはある意味、フィルは二人の良さを理解した上で、それぞれの長所を引き出しながら、うまく使い分けたという事なのでしょう。


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イーノはヴォーカリストや演奏者として、本作にかなりの貢献をしていますが、その背景にあるのは何でしょう。

イーノのソロ作を追ってみると、「ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ」(Here Come The Warm Jets)(1974)や「テイキング・タイガー・マウンテン」(Taking Tiger Mountain by strategy)(1974)にも、フィル・マンザネラの名前が認められます。

もともと801のバンド・ネームもイーノの第二作から採られたものです(※)。そう考えると、二人の関係は結構、蜜月だったようです。後にフィルはインタビューで次のように話しています。(※)「The True Wheel」の"We are the 801"より
それによると、エンジニアのレット・デイビス(Rhett Davies)の周りには、イーノを含めて居心地の良いメンバーがファミリーのように集い、気の向くままにスタジオ作業を進めていったようです。


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フィルのソロ『ダイヤモンド・ヘッド』も、クワイエット・サンも、801の諸作も、そうやってオウン・ペースで音を形にしていったのでしょう。こうしたセッションにおいて、イーノはデイヴ・ジャレット(Dave Jarrett)にシンセを教えたといいます。

よく知られているように、クワイエット・サンの『メイン・ストリーム』と、フィルの初ソロ作『ダイヤモンド・ヘッド』は、昼夜分けて同時並行でレコーディングが進みました。それにしても、二作はそれぞれに音楽傾向も異なっています。前者の正統派ジャズ・ロック路線に対して、フィルの『ダイヤモンド・ヘッド』は、実にバラエティに富んだ作風です。

サイケ・ポップあり、ギター・バラードあり、ラテンあり、アンビエントな響きあり、プログ・ジャズありと、相当にクロス・ジャンルです。いわゆるギタリストのソロ作というイメージからはかけ離れたセンスと表現力で構成されているのが『ダイヤモンド・ヘッド』だったのではないでしょうか。


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ヴォーカルものも、担当がワイアットかイーノか、ジョン・ウェットンかビル・マコーミックかで、印象もがらりと違う。それを統一感がないとするのか、酸いも甘いもひっくるめてフィマン節とするかで、評価は二分します。しかし、『ダイヤモンド・ヘッド』もクワイエット・サンも売れました。

同じアイランド・レーベル(Island Records)で言うと、同時期のバッド・カンパニー(Bad Company)やキャット・スティーヴンス(Cat Stevens)並みにセールスがあったというからたまげる。当時EGものはアイランドからリリースされていましたね。

米国の配給元はAtcoだったようですが、こいつは盤質が悪く、だから余計に英国盤が売れたという事情もあったのか、笑いが止まらなかったようです。


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時代に寄り添うように、そして背を向けるように、フィルの音楽性は多様性を示しました。『リッスン・ナウ』も例外でなく、ポップにアンビエントに、そして期待を裏切らずプログレ風味やジャジーな味付けも忘れていません。

さて、次回の夜話は第120話。ということで、お読み頂いたあなたにスペシャル・プレゼントを用意いたしました。次回はおいしいワインを求めてイタリアの旅へのご招待です。ただし、旅費はご自分でご用意ください(笑)。






Phil Manzanera - guitar, acoustic piano, Hammond organ
Eno - guitar treatment, chorus piano, synthesizer
Simon Ainley - lead vocals
Bill MacCormick - bass, vocals
Ian MacCormick - vocals
Tim Finn - vocals
Kevin Godley - vocals, percussion
Lol Creme - vocals
Billy Livsey - clavinet, Wurlitzer electric piano, Fender Rhodes electric piano
Mel Collins - soprano saxophone
John White - tuba
Eddie Jobson - acoustic piano, Fender Rhodes electric piano
Eddie Rayner - acoustic piano
Francis Monkman - Fender Rhodes electric piano, synthesizer
Rhett Davies - Hammond organ
Simon Phillips - drums, percussion
Dave Mattacks - drums
Alan Lee - background vocals

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第118話 Phil Manzanera 『Diamond Head』 (1975)

今夜の一曲  Frontera


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フィル・マンザネラの『ダイヤモンド・ヘッド』(1975)、『リッスン・ナウ』(1976)。クレジットを見て、いくつか思うところもあり、今回はそれを酒の肴に一杯。

一杯目はロバート・ワイアット(Robert Wyatt)。二杯目はイアン・マクドナルド(Ian MacDonald)。三杯目はブライアン・イーノ(Brian Eno)を肴に。え? どれもおいしそうじゃないって?


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<1杯目> ロバート・ワイアットの巻

まず、ロバート・ワイアットとフィル・マンザネラとの接点について見てみましょう。

ワイアットはオープニング・チューンの「フロンテーラ(Frontera)」に参加しています。彼はヴォーカルとティンバレス、カバサなどのラテン・パーカッションを鳴らしまくっています。スペイン語のヴォーカルもヨレた感じ。しかも途中から意図してか、ジャストをはずして歌っています。

彼がスペイン語で歌うのは、何も今に始まったことではありません。ソフト・マシーンの『Volume Two』(1969)の「Dada Was Here」などがそれです。本曲は、後半のチューニングをハズしたような唱法も'60sソフト・マシーンを引きずったかのようで、私などは知らず遠くをみる目つきになってしまいます。これはヤバいです。


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ラテン・フレーバーを持ち込んだのが誰のアイデだったのか、それはわかりません。しかし、フィル・マンザネラ自身もイギリス人の父とコロンビア人の母の間に生まれていますし、ベネズエラやキューバで育ったという環境要因もあって、ラテン要素は彼の遺伝子の一部なのかもしれません。

ワイアットとフィルの付き合いはいつ始まったのでしょう。少なくとも、ビル・マコーミック(Bill MacCormick)の母親の同僚(Honor Wyatt)の息子がロバート・ワイアットだったので、これまた狭い世界です。

ワイアットはビル・マコーミックとはマッチング・モール(Matching Mole)つながりですし、ビル・マコーミックはフィル・マンザネラとクワイエット・サン(Quiet Sun)つながりでした。


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<二杯目> イアン・マクドナルドの巻

さて、クレジットにあるイアン・マクドナルドとは何者なのか。担当楽器はバグパイプだ。ひょっとしてキング・クリムゾン(King Crimson)?と、最初思いましたが、これは違うでしょう。たまたま、クリムゾンのイアン・マクドナルドとは同性同名なだけかと。

どうやら、イアン・マクドナルド(Ian MacDonald)というのはペン・ネームで、本名はイアン・マコーミック(Ian MacCormick)。つまり、ビル・マコーミック(Bill MacCormick)の兄貴です。

そう、イアン・マコーミックは、イアン・マクドナルドの名前で音楽評論やライターとして活動していました。そして、クワイエット・サンの初期から、作詞の面でグループに貢献してきたといいます。


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さて、「フロンテーラ」のクレジットを見てみましょう。フィル・マンザネラ/ビル・マコーミック/ロバート・ワイアットの三人の連名作になっています。色々、調べ物をしているうちに、面白い資料に出会いました。

証言者はイアン・マクドナルドとあります。イアンの証言の中に「ビル」という人物が出てきます。最初はクリムゾンのイアン・マクドナルドと勘違いしていて、ビルブラがどうして?と思い込んでいました。でも、バンド・ヒストリーと照らし合わせると、イアンをビルマコの兄と想定した方が色々とつじつまがあってきます。

※ちなにみクリムゾンのイアン・マクドナルドのスペリングはIan McDonald。一方、イアン・マコーミックのペンネームはIan MacDonaldです。


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その証言によると、1970年にフィル・マンザネラがイアンの家に「フロンテーラ」の原曲を持ってきました。フィルは詞の部分のコードを作ってきて、イアンとビルが残りの曲を書き上げました。さらに、ビルが詞をつけた・・・

という事は、本作はフィルマン原作、イアマコ、ビルマコ兄弟との三人がかりで作り上げた曲です。

この曲が収録されていたのはロバート・ワイアットのソロ作『Ruth Is Stranger Than Richard』(1975)のサイド・ルース(Side Ruth)三曲目。クレジットはビル・マコーミック/フィル・マンザネラ/ロバート・ワイアットの共作になっていて、曲のタイトルは「Team Spirit」。

それを新たに解釈し直したものが『Diamond Head』の「Frontera」とされています。しかし、なぜかクレジットはフィル・マンザネラ/ロバート・ワイアットのみで、ビル・マコーミック抜き。おまけに、両者は全く違う曲に聞こえます。


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新たにワイアットがスペイン語で詞を書いたわけですが、不思議なことに、ワイアットの詞はビル・マコーミックの詞の西訳とは全く異なっています。

先に挙げたソフト・マシーンの『Volume Two』(1969)の「Dada Was Here」もドロップアウト・ソングなのか、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)への賛歌なのか、とらえがたい曲でした。同様に「Frontera」も"este actor"や"frontera"が何を象徴しているのか解釈に詰まります。実に悩ましき、謎多き曲ですね。

※デュシャンはニューヨーク・ダダの中心人物の一人。彼なくして20世紀美術は語れない、とまで言われています。


<三杯目> ブライアン・イーノの巻につづく


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Phil Manzanera - electric 6 and 12 string guitars, tiple, acoustic guitar, synthesized guitar, bass, string synthesizer, organ, piano, vocals
Robert Wyatt - vocals, timbales, cabasa, background vocals
Brian Eno - vocals, treatments, rhythm guitar, piano, percussion
Eddie Jobson - strings, fender piano, electric clavinet, synthesizer
Dave Jarrett - keyboards
Andy Mackay - soprano and alto saxophone, oboe
Ian MacDonald - bagpipes
John Wetton - bass, vocals, mellotron
Bill MacCormick - bass, vocals
Brian Turrington - bass
Paul Thompson - drums
Danny Heibs - percussion
Chyke Madu - percussion
Sonny Akpan - congas, percussion, bongos, big gong, maracas
Charles Hayward - percussion
Doreen Chanter - vocals




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 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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