第100話 Nirvana U.K. 『Local Anaesthetic』 (局部麻酔) (1971) U.K.

今夜の一曲  Modus Operandi


nirdisc (1)


その昔、某プログレ誌で「ネクロフィリズム」(necrophilism / necrophilia)の代表格が『局部麻酔』(Local Anaesthetic)のスリーヴだという記事を読んだ。「ネクロ(Necro-)」とは「死」を表す接頭辞、「フィロ(-philo-)」は「愛する」なので、これで「死体愛」とか、性倒錯のたぐいの、ただならぬ言葉らしいことを、ぼんやり理解した。

編者はおそらく、その言葉を踏まえながら、もっと広い意味でキーフ(Keef)の異様なスリーヴ・デザイン群をカテゴライズしようとしたのだろう。キーフは無機質なモチーフをことさらに強調する手法を選ぶことで、生命感の希薄さをいっそう際立たせようとした。


nirdisc (8)


ニルヴァーナU.K.の『局部麻酔』は、彼らの四枚目のアルバム。ファンにとってはこれがヴァーティゴ(Vertigo)からリリースされたという事実が重要だった。だが、それまでのソフト・サイケなポップ・サウンドとは距離を置くような前衛的な音のコラージュは、私をひたすら戸惑わせることになる。

既にアレックス・スパイロポウロス(Alex Spyropoulos)は、パトリック・キャンベル・ライオンズ(Patrick Campbell-Lyons)のもとを離れていた。必然的にソロ・プロジェクトと化したねじれた音空間は、クライマックスもないし、カタルシスを超えた陶酔もなかった。


nirdisc (9)


雑味というか、アヴァン臭をもって是とするか非とするか、ここには決定的な踏み絵がある。極上のポップ・サイケの神髄を見ることを期待したファンたちは、このアルバムはなかったことにして、即時、その場を離れた。実は私もその一人だった。素材としては面白かろうが、アートとしてはどうなのか?トータルな意味でレシピに工夫が欲しかったとは思う。

そうは言いつつ、後ろ髪を引かれるのは、キーフのジャケットに包まれたヴァーティゴの渦巻き(スワール)、その一点にある。これは個人的な感懐なので、取り上げるに値しないかもしれないが、誰か一人くらいはこんな私的な怨念をネットに乗せたっていいだろう。これはとりもなおさず、私のNirvana U.K.への片思いなのだから。


nirdisc (6)


確かに、『All Of Us』などは、かなりお金をつぎ込んで取り組んだアルバムだった。プロデューサのクリス・ブラックウェル(Chris Blackwell)も、資金を投入して気張ってみせた。アイランド(Island Records)も、本気でプッシュしようとした。

だが、『All of Us』を最後に、クリス・ブラックウェルとは決裂。不運にも移籍先のメトロメディア(Metromedia)は倒産、ヴァーティゴに移籍し、実質、Nirvana U.K.はソロ・プロジェクト化した。


nirdisc (3)


パトリックは、翼を得たサイモンがマグダレーナと結ばれるメルヘン・ポップなコンセプト作『The Story Of Simon Simopath』(1967)で若干24歳。ピエール・フリテルの不気味な絵画をフロントにすえて謎めいた『All Of Us』(1968)で25歳。

音作りやコンセプトについても若さゆえの勢いみたいなのがあった。いいんですよ、若いもんは何をやっても(突然のオジさん的発言)。ポール・マッカートニー(Paul McCartney)が「イエスタデイ」を書いたのも二十代前半だったし。

nirdisc (2)


その終着駅がこれだ。パトリック28歳。ポール・マッカートニーも28歳の時には、既にビートルズと訣別している。

『Local Anaesthetic』当時の邦題は『局部麻酔』なんかじゃなくって『涅槃(ねはん)』だったから笑える(笑)。グループ名もニアヴァーナと表記されていた。


nirdisc (7)


元々R&B志向の強いパトリックが業界の流れに揉まれつつ、本気でやりたかった音楽は、結局これだったのか。いや、整理しきれない心象風景を、浮かび来るままに記録した、というのが案外正解だろう。

しかしだ、プロデュースの方向性として、これで良かったのかという疑問は残る。これが、良くも悪くもセルフ・プロデュースの限界だった。泥沼のジャムもテオ・マセロ(Teo Macero)のように、カット&ペースト次第でアートに仕上がっただろうに。

nirdisc (4)


そう思えばこそ、1人の天才を喪失した寂寥感にむせび泣く今宵である。

<第52話 Nirvana 『All Of Us』 ピエール・フリテルの絵画の謎へ>


Patrick Campbell-Lyons
Pete Kelly
Tony Duhig ?
Jon Field ?
Mel Collins ?

nirdisc (5)
スポンサーサイト

テーマ : プログレ
ジャンル : 音楽

コメントの投稿

非公開コメント

ゲスト・ブック
Profile

ticca

Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR