第101話 Traffic  『Last Exit』 (1969) U.K.

今夜の一曲  Withering Tree


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さて、映画『タッチャブル』(The Touchables) (1968)に話を振りましょう 。当初の計画では、スティーヴ・ウィンウッドが映画のテーマ音楽を担当する予定だった・・・という話を聞きました。ところが実際には、Nirvana U.K.の曲が採用されました。果たして、事の真相は?

今回取り上げたトラフィック(Traffic)の「Withering Tree」。実はこの曲は『タッチャブル』のために書かれたというのが定説です。サード・アルバム『ラスト・エグジット』(Last Exit)A④に収録されています。実際、歌詞にも"The Touchables"という言葉が出てきますよ。

この曲は、シングル曲「フィーリン・オールライト」(Feelin' Alright)(Sept. 1968)のB面曲で、作詞ジム・キャパルディ(Jim Capaldi)、作曲スティーヴ・ウィンウッド(Steve Winwood)の共作となっています。


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アルバム自体はグループのオリジナル・レコーディングではなく、シングルB面コレクションと未発曲、そしてフィルモア・ウェスト(Fillmore West)でのメイソン抜きの三人ライヴとなっています。しかし、編集モノとして片付けてしまうには惜しまれるほど、なかなか密度の濃い出来上がりだと思います。※当時はバンドは活動休止状態だった。

いずれにせよ、この曲が映画に使われることはありませんでした。ウィンウッドが多忙で、曲が間に合わなかったのでしょうか。

実はちょっとよくわからない部分もあるんです。1968年3月16日付けの『New Musical Express』誌にウィンウッドのインタビューが載っています。


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その記事によると、ウィンウッドはインタビューの前日、スピークイージー(The Speakeasy Club)でのギグを終えてから、スプーキー・トゥース(Spooky Tooth)がディランの曲をレコーディングするのを見に行って睡眠不足。結局、このインタビューには予定していたジム・キャパルディもクリス・ウッドは現れませんでした。※出入りの激しいメイソンでしたが、この時期もメイソン不在。

その記事によると、あと1~2ヶ月で『タッチャブル』が公開される、とあります。そしてウィンウッドがそのタイトル・ソング(冒頭とエンディングに流れる)を担当する旨が記されているではありませんか。同時に同名のシングルの予定もある、と書かれています。

曲はジム・キャパルディが詩を書き、ウィンウッドが曲をつけ、クリスを加えたトリオ編成のトラフィックが演奏するフォーマット。


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その後トラフィックは米国でデビュー・ギグの予定がありました。サンフランシスコのフィルモア・ウェストでしょうか。その後ニューヨークのレコード・プラント(Record Plant)へと駆けつける予定でした。

怒濤のようなスケジュールの波に飲まれてか、映画のタイトル・ソングが間に合わず、その座をNirvana U.K.に譲ったのでしょうか。

さて、映画『タッチャブル』のテーマ曲の話でした。スティーヴ・ウィンウッドに替わって、映画のテーマ曲に選ばれたのは、Nirvana U.K.のシングル曲「All Of Us」。これは、映画のトレーラー(予告編)でも聞くことができます。


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この曲が映画に使われるきっかけは、映画のプロダクション・スタッフがたまたまデモ・テープを耳にしてのことだった、という話。Nirvana U.K.も、映画『タッチャブル』も、いずれも企画会社が同じだったという環境。ちなみにトラフィックもアイランド(Island Records)所属アーチストでした。

「All Of Us」の歌詞は、少なくとも映画を念頭に書いたものではなさそう。むしろ、映画の挿入歌になったという事で、曲のタイトルを「The Touchables(All Of Us)」に修正した・・・と考える方が順当でしょう。

「All Of Us」は、Nirvana U.K.のセカンド・アルバム『All Of Us』のタイトル曲。A面の三曲目に収められています。※Original Motion Picture Soundtrackには「The Touchables Theme (All Of Us)」と記されている。


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アルバムは通称『All Of Us』と呼ばれますが、正式タイトルは『The Existence Of Chance Is Everything And Nothing While The Greatest Achievement Is The Living Of Life, And So Say All Of Us』と舌をかむ勢いです。アルバム・カバーに引用されたピエール・フリテル(Pierre Fritel)の絵画と、何らかの関連があるのでしょうか。

パトリックの作品のジャケは、ソロ/グループ問わず、不思議な匂いを放っています。『All Of Us』に関して言えば、クレジットに表のデザインがC.C.S.、裏の写真はGered Mankowitzと書いてあることに気づきました。彼らがパトリックの見立てをバックアップした仕掛け人というわけでしょうか。

映画『タッチャブル』は、ロバート・フリーマン(Robert Frreeman)監督作。彼はビートルズ(The Beatles)の『ウィズ・ザ・ビートルズ』(1963)『ビートルズ・フォア・セール』(1964)『ラバー・ソウル』(1965)のジャケット写真を担当した写真家です。


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同時に、映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!(ア・ハード・デイズ・ナイト)」』(A Hard Day's Night)(1964)や、『ヘルプ!4人はアイドル』(Help!)(1965)にもスタッフとして参加、タイトル・デザインを担当しています。

『タッチャブル』の筋立ては、評によればまさにスウィンギング・ロンドン(Swinging London)を代表する映画で、カルト映画という表現にぴったり。

クリスチャン(Christian)というロック・スターが、四人の美女に誘拐され、性の奴隷になって虐げられる。ああ、私と替わっていただきたい。ジュディ(Judy)、エスター(Esther)、キャシー(Kathy)、マリリン(Marylin)演じるモッド・ガールズは激ヤバ系。


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クリスチャンは、プラスチック製のシースルーなシャボン玉のカプセルに監禁されます。彼のモデルは、当時のロック・アイドル=ブライアン・ジョーンズ(Brian Jones)あたりでしょうか。まぁ、この下らなさこそ、本映画の最大の魅力ですから。良くも悪くも時代の空気を閉じ込めたエンタメ作です。

トレーラ(予告編)を見てみると、この映画の最後には「16歳未満は保護者同伴のこと」ってキャプションが映し出されます。まぁ、私が親の立場なら、我が子にはこの映画、絶対見せたくないですよ。

世の退廃と堕落がマーズ(MERS)並みの連鎖で愛する子どもたちに感染したらどうするんでしょうか。この映画には、バイオ・ハザード的に、リスク4並みの致死性を感じます。おー、やだやだ。素晴らしき面白バカバカさの典型。


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個人の感想ですが、『タッチャブル』には、ジェーン・フォンダ(Jane Fonda)の『バーバレラ』(Barbarella)(1968)にも共通する、倒錯した退廃の腐臭を感じます。当時、ジェーンは監督のロジェ・ヴァディム(Roger Vadim)の奥さんでした。愛する嫁はんに何させるんだ、あんたは。モリス・ジャール(Maurice Jarre)の音楽も勿体つけたようで100%楽しめます。

それにしても、『チャイナ・シンドローム』(The China Syndrome)(1979)からジェーン・フォンダに入った私にとって、『バーバレラ』はあんまりだった。あまりにおバカすぎて、ジェーンのキャラ・イメージの大きな落差に脳髄までしびれました。


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改めて映画『タッチャブル』のクレジットを確認すると、ミュージック・スコアのクレジットに、コンポーザーとしてケン・ソーン(Ken Thorne)の名前があります。

『タッチャブル』の20世紀フォックスのオリジナル・サウンド・トラックには、新興のアイランド・レコード系のアーティスト陣が参加しています。

Nirvana U.K.以外にも、ジャズ&ブルース・ロック・バンドのウィンダー・K・フロッグ(Wynder K. Frog)、愛すべきB級ブリット・ハードなスプーキー・トゥース(Spooky Tooth)、パイ(Pye Records)からは、R&B系のフェリス・ホイール(Ferris Wheel)などを収録しています。


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思いっきりソウルフルなロイ・レッドマン(Roy Redman)の「Good Day Sunshine」には脳天たたき割られました。当時、OST(オリジナル・サウンド・トラック)が日本盤LPとして発売されたってのも驚きの極致です。世の中には説明のつかない怪奇現象が突如として起こるものです。

中でも最大のミステリーは、映画『タッチャブル』が、20世紀Foxが配信してすぐ、オリジナルが消失!したという恐ろしい事実。以来、一度もVHSにもDVDにもなっていない?

はて、面妖な。ならば、ウェブ上の動画の断片は一体どういうルートで流れてきたのか。奇々怪々、複雑怪奇。これまでTV放映された経歴はあるのでしょうか?

クールなスウィンギング60sのモッド・コメディ。馬鹿らしいけど、一度は全編通して見てみたい。







Jim Capaldi - drums, vocals
Dave Mason - guitar, vocals
Steve Winwood - guitar, keyboards, vocals
Chris Wood - flute, saxophone
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ジャンル : 音楽

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No title

こんにちは。面白そうな映画の紹介ありがとうございます。
Touchable、初めて知りました。あの時代の映画ですと、キャンディや欲望、パフォーマンスなどは見たんですけど、サイケと言うよりお馬鹿ならキャンディっぽいのかな?
トラフィックの曲が不採用になったのは、ウインウッド的には助かったって感じでしょうかね?
まあ、今見ればアホみたいなスケベ映画でも、男女平等やら性的表現の自由と言う時代性を考えたら、充分意欲的、革新的だったのかもしれない?反社会的な若者像は、アメリカンニューシネマの世界とも通じる訳ですし。

最近、ロジャー・コーマンのドキュメンタリー『コーマン帝国』を見たばかりなんで、この映画も穴どれないかも?と思いました。

タッチャブル

こんにちは。
若者たちの思いの代弁者が、あの時代にはいっぱいいたことは新鮮な驚きですね。
サブカルめいたテーマでも、それを映画にせよ、文学にせよ、音楽にせよ、時代の追い風に乗って形にすることが出来たのはラッキーなことです。
思えば、時代の変化を敏感にとらえることのできた人たちが、新しい表現方法を得て、嬉々として作品に仕上げていったんですね。
その後、若者文化の中心はロンドンからアメリカ西海岸に移っていきますが、その時代その時代のドキュメンタリーが、こうして残っているのは楽しい限りです。
それにしても、Yuccalinaさんは、守備範囲が広いですね。
いつも感心していますよ(笑)。
それに対して、僕はいつもブログに気まぐれな文章を上げっぱなし、放りっぱなしの無責任で反省しきりです。
いつコメントありがとうございます。
また、ブログ記事を是非とも拝見させてください。



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Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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