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第109話 Pink Floyd 『Soundtrack from the Film More』 (1969) U.K.

今夜の一曲  Cirrus Minor 「サイラス・マイナー」


109 (3)


<サイラス・マイナーと大いなる誤解>

牧歌的で、それでいて幻覚を催させるような不思議な曲。コード・シークエンスもお得意の悶絶パターンだし、深まるエコーに埋もれゆくヴォーカルや、ファルフィッサとハモンドが渦を巻いて怒濤のコーダに流れ込むパターンも反則技だよなぁ。もちろん主犯格はロジャー・ウォータースだけど、彼はいつでも確信犯だから困る。

フィーチャーされている小鳥のさえずりはHMVのSE集からの引用とのこと。オープニングは「Dawn Chorus」(夜明けの合唱)、オルガンにかぶる小鳥の鳴き声はナイチンゲール(nightingale)で、いずれも1961年のレコーディング・ソース。HMVのサウンド・ライブラリーはEMIに版権があったことから使われたようです。

映画『モア』の中では、中盤で主役のステファン(Stefan)が、マリファナやヘロインでへろへろにトリップ・アウトするシーンで流れ出す曲ですが、出番はわずか1分にも満たなかったりする。


109 (1)


謎めいた歌詞については、ちょいと謎が解けませんね。最初は、ジョージ・エリオット(George Eliot)(1819 - 1880)の『サイラス・マーナー』(Silas Marner)の借用かと思ってました。

自分が読んだのは、クレイグ・リサー(Craig W. Risser)のリトールド(Retold)版。それがまた感動的な話で、細かな機微が知りたくなり、土井治訳の日本語版を手にしました。ざっとストーリーを紹介しましょう。

ランタン・ヤード(Lantern Yard)村から流れ着いた世捨て人、サイラス・マーナー。彼は親友に裏切られ、無実の罪で殺人の疑いがかけられ、許婚(いいなずけ)とも別れて絶望の淵に追いやられます。その親友はサイラスの許婚と、何と略奪婚。サイラスは人も世も、そして神をも呪わんばかり。

そうして、流れ着いたのがラヴィロウ(Raveloe)村。サイラスはリンネル(リネン/亜麻織物)工として無心で機(はた)を織り続けます。彼の慰めは貯まりゆくピカピカのギニー金貨でした。毎晩、床の穴に隠した金貨を取り出しては積み上げ、数え上げることに快楽を見いだすサイラス。


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ところが、その金貨が何者かに奪い取られてしまいます。傷心のサイラス。そんな折、石杭(ストーン・ピット)にあるサイラスの隠れ家に幼子(おさなご)が迷い込みます。彼の隠れ家からほど近い森の中に、母親と思われる女が、ハリエニシダに積もった雪に埋もれて、こと切れていました。

こうして、サイラスと、幼子エピー(Eppie)との生活が始まります。サイラスはエピーの世話に明け暮れながら、忘れていた「人」としての感情を取りもどしていきます。そして村人との心温まる交流も育まれていきます。

エピーは親思いの慎ましやかな女性に育ちます。幸福の日々は永遠に続くかと思われました。ところが、エピーの母親が誰なのか謎が解け、その意外なる父親の正体もわかってきました。さらに、サイラスのお金を盗んだ犯人が判明し、その衝撃的な消息も明るみに出ます。


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そうした流れの中、事もあろうかサイラスとエピーの中を裂かんとする人物が現れ、息もつかせぬ展開となります。

さてさて、嫌疑をかけられてラヴィロウへと逃れてきたサイラス。彼は人間に対する不信感や猜疑心を忘れようとして機織りに没頭しましたが、その対価として得た金貨が、彼の心の支えとなる皮肉。

金の亡者に落ちぶれる中、エピーが現れてからは人間性を取りもどしていきます。互いに親子の愛を育むシーンは、まさにパストラルな情景が、豊かに暖かくふくらんでいきます。

ピンク・フロイド(Pink Floyd)の「サイラス・マイナー」は、そんなシーンにぴったりに思えました。


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しかし、歌詞のOn a trip to Cirrus Minorという部分が妙に引っかかりました。ということはサイラス・マイナーとは、比喩的にせよ、そこへと足を運べる場所ということになります。

やっちまったか、と青ざめながら辞書引きしてみると、なんとCirrus Minorとは気象用語で雲のタイプの一つらしいことがわかってきました。Cirrus自体は「巻雲・絹雲(けんうん)」<すじ雲>。minorなので、直訳が許されるなら「小規模なすじ雲」ということになるでしょうか。

http://www.whatdoesthatmean.comによれば、この雲は大気圏の高層(高度11キロ程度)にあらわれ、氷の結晶から成り立ち、その形状は羽根のよう、とあります。
A type of white, wispy cloud, usually consisting of ice crystals and having an average height of 7 miles, seen in tufts or feathery–shaped bands across the sky.


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気象学的には、この雲は低気圧や台風が近づいてくると真っ先にあらわれるそうですが、すぐに悪天に移行するわけではないし、しばらく晴天が続くこともあるそうです。

One a trip to Cirrus Minor / Saw a crater in the Sun / A thousand miles of moonlight later
というわけで、大気圏を突き抜け、太陽のクレーターまで観察しちゃったわけですから、宇宙飛行士の油井亀美也さんもびっくりですw(゚0゚*)w

どうやら、この曲とジョージ・エリオットとの関係はなさそうに感じました。まぁ、でもこれをきっかけにきちんと岩波文庫本に触れることができたので、大きな収穫だったかもです。いい話ですよ、超感動的な。


109 (6)


でもエリオットさん、1を伝えるのに10は思い入れたっぷりに語る人ですね。ま、それが魅力なんでしょうが、物語が大きく展開(転回)するのは終盤近くになってからですし、序盤~中盤は忍耐強さが必要かと。

この小説、日本ではほとんど知名度もないだろうとタカを括ってたら、なんと・・・!友人の女性(KMさん)は某女子大の英文学の授業で「サイラス・マーナー」を読んでレポート書いたらしい。何とかハラ(ハラスメント)とか非難受けそうですけど、さすが名にし負うお嬢さま校。良家の子女に読ませる文学作品としてマストってわけでしょうか。

ということで無理矢理、一件落着。おあとがよろしいようで。




David Gilmour — acoustic guitar, double tracked vocals
Richard Wright — Hammond and Farfisa organ
Roger Waters — writer, birdsong effects
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テーマ : サイケデリック
ジャンル : 音楽

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No title

こんばんは。
一度コメント入れたつもりでいたら、ちゃんと送られてなかったみたいです。
サイラス・マーナー、ピンクフロイドとは関係なかったのは残念でしたが、小説の紹介は面白かったです。興味持ちました。いつもながら、ticcaさんはストーリーテリングが上手ですね。
見込みが外れても、ロックの元ネタ探しって、楽しいですよね。

Re: No title

こんばんは。
せっかくコメント下さったのに、送られてなかったとのことですね。
実は、管理画面では、二通とも確認できるんです。両方とも承認したのに、一通分(二通目)しか反映できていないようです。
不具合が生じているんでしょうか。
どちらにしても、気を揉ませてしまって申し訳ないです。
サイラス・マーナーは当時のヒット作だったようです。でも、次作ではこけたそうです(笑)。
紹介させて頂いたように、中盤まではなかなか進展がないのですが、終盤はドキドキものですよ。
ただ、土井治さんの訳本は、岩波文庫から出ているのですが、1952年版のものは、とても難しくて読めません。
1988年のものを是非(笑)。
友人が英文科でレポートを課されたという話を引用しましたが、教授は英国人だったようです。
英国では、学生の読解トレーニング用に、『サイラス・マーナー』が使われているようです。
それにしても、お誉めいただき感謝です。
今後ともよろしくお願いします。
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ticca

Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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