第111話 Graham Bond 『Love Is the Law』 (1968) U.K.

今夜の一曲  Love Is the Law


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<グレアム・ボンドの悲劇> その2

本作は英国を離れて米国パルサー(Pulsar Records)で秘かに録音していた(んな、大げさな)二枚のアルバムのうちの、一枚目。演奏はボンドの多重録音によるもので、ドラムスにあのハル・ブレイン(Hal Blaine)! そしてバックアップ・ヴォーカルに妻ダイアン(Diane Stewart)の助力を得ている。

作詞作曲すべてボンド自らの手によるもので、サウンドはリズム&ブルース風味のあるサイケでアングラなヘヴィー・ジャズ・ロックといったところ。マルチ・レコーディングは見事だが、多重録音せねばならなかったというところがボンドの窮状を端的に現している。


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ボンドの経歴を振り返ってみると、グレアム・ボンド・オーガニゼーション(GBO)のサウンドは、ポップ・ファンにとってはtoo jazzy、ジャズ・ファンにとってはtoo poppy、という立ち位置からか、なかなか人気に火がつかなかった。

ボンドはドラッグに溺れ、ジョン・ハイズマン(Jon Hiseman)もディック・ヘクトール・スミス(Dick Heckstall-Smith)もGBOを去り、 ジョン・メイオール(John Mayall's Bluesbreakers)に合流し、コラシアム(Colosseum)へ。


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ボンドの薬物依存が泥沼化する中、彼は黒魔術に酔いしれます。ボンドは自分がアレイスター・クロウリーの生まれ変わり(息子)だと堅く信じるに至りました。

そんな不安定な時期にあっても、音楽的な活動には没頭しました。それが、彼にとっては、まさに自分を表現する唯一の手段だったのでしょう。この時期、ボンドは母国に戻り、Ginger Baker's Airforceの二枚(1970)にも参加しています。また、『Love Is the Law』(1969)や『Holy Magick』(1970)、『We Put Our Magick on You』(1971)などは、黒魔術の影響下にある作品でした。


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しかし、ボンドは相変わらずアルコールとドラッグまみれ。ジャック・ブルース(Jack Bruce Band)とのコラボも解消(解雇)されました。そんな折、妻のダイアンは、ボンドが義理の娘エリカ(Erica)に対して性的虐待を行っているという申し立てを裁判所に提出。ボンドの心は蝕まれ、アヘンや抗うつ剤の影響で、刑務所や精神病院を出たり入ったり。

そんな流れの中、とうとう悲劇が訪れました。1974年5月8日のことです。彼はロンドンの地下鉄ピカデリー線(Piccadilly Line)、フィンズベリー・パーク駅構内(Finsbury park)で轢死。享年37歳。


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彼の死は、事故なのか自殺なのか、憶測を呼びました。「この身を悪魔に捧げる」ために自殺したという説もあったし、ボンドが亡くなる直前には、悪魔払いの儀式が行われていたという説もあります。

「ボンドは悪魔によって、闇の世界に引きずり込まれたのだ。」という噂を証明するかのように、遺体の損傷は激しく、当局が身元を突き止めるのに、二日間も要しました。指紋の照合によって、悲劇の主がボンドである事が、ようやく判明したというありさま。


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ボンドは双極性障害(bipolar disorder)であったと言われています。かつては「躁うつ」と呼ばれていました。自殺リスクが高く、自傷も起こりやすい(※)という臨床報告もあるようです。不安障害や薬物乱用を併発するリスクも高いとされます。

※『Bipolar Disorder』Ian Anderson, Peter Haddad / BMJ (Clinical research ed.)345 (Dec 27, 2012)
※『Suicide in bipolar disorder: Risks and management.』Baldessarini RJ, Pompili M, Tondo L. / Department of Psychiatry, Harvard Medical School, Boston, MA, USA (Jun 11, 2006)

双極性障害を芸術的才能との関連で説く人もいます。ゴッホ、へミングウェイ、ベートーヴェン、トルストイ、リンカーン、ブライアン・ウィルソンetc. 。ですが、真偽のほどはわかりません。


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ボンドの幼少は決して恵まれたものではありませんでした。養子としての生い立ち、女性への性的倒錯。そうした心の闇を埋め合わせるために、ひたすら音楽の世界へと、のめり込んでいきました。

彼がリードしたGBOは真のイノベーターであり、ハモンドやメロトロンの使用は後進のアーチストに鮮烈なインパクトを与えました。ジョン・ロード(Jon Lord)も「ハモンド・オルガンという楽器を知りたかったら、グラハム・ボンドを聴け」と語っていましたし、ブライアン・オーガー(Brian Auger)やキース・エマーソン(Keith Emerson)も、ボンドからのアグレッシヴなプレイに多大な影響を受けたと語っています。

ジャズやブルース、ロック、ポップス、ファンクなどのアマルガム(融合)を積極的に追求して、独自の音楽を求め続けた攻めの姿勢。それは、連綿と続くロックの歴史において燦然ときらめくモニュメント。彼の功績は、決して忘れ去られる事はないでしょう。

願わくば、彼らがコマーシャルな成功を収めていれば・・・きっと何かが変わっていたはずです。




Graham Bond - Keyboards, Primary Artist, Saxophone, Vocals
Hal Blaine - Drums
Dave Sheehan - Drums, Percussion
Diane Stewar - Vocals

<第110話 Graham Bond 『Holy Magick』 (1970) へ>
<第 53話  Graham Bond Organisation  『There's A Bond Between Us』 (1965) へ>
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テーマ : 洋楽ロック
ジャンル : 音楽

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No title

ticcaさん、こんにちは。

サイケデリックロック~プログレへの流れは、結構最近になって知ったのですが、その中でGraham Bondが果たした役割は大きいのですね。私はJimmy Pageを介して、彼の名前を知っていた程度なのですが、、。
ところで、双極性障害の例に上がってる人々は、殆どアスペルガーとイコールですね。確かに、音楽や美術な芸術的才能と脳の機能が密接に関わっていそうです。なので、反社会的な人格も多く、コマーシャルな成功は難しくなるのでしょう。

Re: No title

yuccalinaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

なるほどです。そういう視点ではとらえていませんでした。

「反社会的な」というのは、確かに微妙な表現ですね。ヒトを『社会的動物』と定義する人もいますが、なんらかの形で人を感動させたり、やすらぎを与えたり・・・意図してか意図せずしてか人の心を動かす・・・そうした意味では「反社会的」であって同時に「社会的」だったりする・・・字面では表現しきれない多面性が人にはありますね。
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 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

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 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

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