第112話 Paris 『Paris』 (パリス・デビュー) (1976) U.S.
今夜の一曲 Black Book
失意のうちにフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)を去ったボブ・ウェルチ(Bob Welch)。その彼が、ジミー・ロビンソン(Jimmy Robnson)とともに画策したアルバムは、何とまぁツェッペリンの香りがぷんぷんした。
ロビンソンはマックの『クリスタルの謎』(Heroes Are Hard to Find)(1974)でエンジニアを務めていたが、後にディテクティヴ(Detective)(※)『直撃波』(1977)のプロデュースにアンディ・ジョンズ(Andy Johns)と共に携わるなど、この手のバンド・サウンドに心酔していたフシがある。
※ツェッペリン主導のスワン・ソング(Swan Song)所属バンドで元シルヴァー・ヘッド(Silver Head)のマイケル・デ・バレス(Michael Des Barres)、元イエス(Yes)のトニー・ケイ(Tony Kaye)を擁するハード・ロック・バンド。そのあまりにZepクローンなサウンドゆえに、プロデューサーのジミー・ロビンソンは、「実はジミー・ペイジ(Jimmy Page)の偽名ではないか?」と噂されたほど。
パリスのパーソネルは、ジェスロ・タル(Jethro Tull)出身のグレン・コーニック(Glenn Cornick)と、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)のナッズ(Nazz)出身、トム・ムーニー(Thom Mooney)とのトリオ編成。トムは当初、本作レコーディングのためだけに参加したのだが、メンバー間の協働は鉄壁だった。
それにしてもだ、このツェッペリン本家に迫る(凌駕する)勢いの技巧的なサウンド・メイキングは驚きだ。シャープに磨き上げられたストイックなギター・リフに覆いかぶさる分厚く重層的なレイヤー。気づけばもうパリスの音宇宙のただ中。
しかし、ツェッペリンと比較するのは失礼というものかもしれない。ヘヴィーなリフと取り憑かれたようにミスティックなメロディーが、脳の聴覚野に突き刺さる。それが頭蓋に反響し、脳髄が不思議に共振する。
このアルバムの魅力の一つはアルバム全編を貫くミスティックでオカルティックな歌詞だったりする。「ブラック・ブック」(Black Book)などその典型だが、そもそもこうしたソング・ライティングはウェルチの十八番(おはこ)だった。
とは言うものの、マックと言えばピーター・グリーン(Peter Green)もドラッグの影響下、ミスティックな歌詞を書き上げていた(※)。そして、ウェルチもスーパーナチュラル(超自然)でオカルティックな人生観や自然観をテーマに「バミューダ・トライアングル」(Bermuda riangles)や「ゴースト」(The Ghost)、と言った作品を書き上げて真骨頂を示した。
※「The Supernatural」(1967)「Black Magic Woman」(1969)「The Green Manalishi」(1970)など。なお、「The Supernatural」はPeter Green参加のJohn Mayall & The Bluesbreakers 時代の作品。
※実はグリーンやウェルチだけでなく、スティーヴィー・ニックス(Stevie Nicks)も超自然的な視点に共感するような「リヤノン」(Rhiannon)をヒット・チャートに送り込んだ。こちらは、もろメアリ・リーダー(Mary Leader)著の『Triad: A Novel of the Supernatural』(1973)の影響のもと、作られた。
個人的には『枯木』(Bare Trees)(1972)収録の「The Ghost」などはお気に入りで、ウェルチのヴォーカルと対位法で進行するメロトロン・フルートの妙に、なすすべもなくノックアウトされてしまった。
1999年のウェルチのインタビュー(※)によれば、このメロトロンはクリスティン・マクヴィー(Christine McVie)がプレイしているらしい。
※『The Penguin Q&A Sessions』Bob Welch, November 8 - 21, 1999
ウェブ上には、このメロトロンが「生フルート」だとか、まさかの「クラリネット」!という評があった。だが、これは恐らく、ウェルチがスクール・オーケストラで6年間クラリネットを吹いていた、という経歴からの想像ではないか。ウェルチは「クラリネットじゃ女の子にもてないことがわかったから、クラリネットはやめたんだ。」と、上記Q&Aセッションで告白している。
『枯木』がリリースされた頃は、フリートウッド・マックの低迷期と言われる。それでもこのアルバムはプラチナ・ディスクを獲得した。バッキンガム&ニックス(Buckingham Nicks)を迎えて大ブレークするマックだが、それに先立つ時期としては、本作が唯一のミリオン・セラー作。
その味のあるカバー・フォトを撮影したのは、ジョン・マクヴィー(John McVie)だった。英国の冬枯れの寂寥感がひしひしと伝わってくる。
マックの歴史をひもといてみると、ピーター・グリーン(Peter Green)は薬禍による精神変調。ジェレミー・スペンサー(Jeremy Spencer)はドラッグ漬けのあげく、新興宗教(The Children Of God)に入信するために脱退。
おまけに、『枯木』を最後にダニー・カーワン(Danny Kirwan)もマックを去ることになる。彼は作曲の重圧からストレスにまみれ、何日も食事を摂らず、ビールだけで生きていたという伝説がある。
そのカーワン。コンサート前のチューニングでウェルチと口論になり、拳やら頭やら自ら壁に打ち付け、愛用のレス・ポールまでぶっ壊した。唯一味方だったフリートウッド(Mick Fleetwood)まで敵に回したというから、そりゃ彼の居場所はなくなるはずだ。
ウェルチはマックの屋台骨としてのカーワンの才能は認めながらも、「煙草はせびるし、全くつきあいにくい奴だった。」とボヤいている。かくして、カーワンはアルコール依存症でクビ。本人も悲惨だったろうが、残された者たちも悲惨の二乗だろう・・・ショービズの世界、皆さん大変ですね。
とりとめもない話になりましたが、マックを巡る人間模様と痴話ばなしは、週刊誌ネタのオンパレード。せめてもの救いは、人間関係の泥沼とは無縁に、残された楽曲群が燦然と輝いていることでしょうか。
Robert Welch – Guitar, Lead Vocals
Glenn Cornick – Bass, Keyboards
Thom Mooney – Drums
<第31話 Fleetwood Mac 『Bare Trees』 (1974) へ>
失意のうちにフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)を去ったボブ・ウェルチ(Bob Welch)。その彼が、ジミー・ロビンソン(Jimmy Robnson)とともに画策したアルバムは、何とまぁツェッペリンの香りがぷんぷんした。
ロビンソンはマックの『クリスタルの謎』(Heroes Are Hard to Find)(1974)でエンジニアを務めていたが、後にディテクティヴ(Detective)(※)『直撃波』(1977)のプロデュースにアンディ・ジョンズ(Andy Johns)と共に携わるなど、この手のバンド・サウンドに心酔していたフシがある。
※ツェッペリン主導のスワン・ソング(Swan Song)所属バンドで元シルヴァー・ヘッド(Silver Head)のマイケル・デ・バレス(Michael Des Barres)、元イエス(Yes)のトニー・ケイ(Tony Kaye)を擁するハード・ロック・バンド。そのあまりにZepクローンなサウンドゆえに、プロデューサーのジミー・ロビンソンは、「実はジミー・ペイジ(Jimmy Page)の偽名ではないか?」と噂されたほど。
パリスのパーソネルは、ジェスロ・タル(Jethro Tull)出身のグレン・コーニック(Glenn Cornick)と、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)のナッズ(Nazz)出身、トム・ムーニー(Thom Mooney)とのトリオ編成。トムは当初、本作レコーディングのためだけに参加したのだが、メンバー間の協働は鉄壁だった。
それにしてもだ、このツェッペリン本家に迫る(凌駕する)勢いの技巧的なサウンド・メイキングは驚きだ。シャープに磨き上げられたストイックなギター・リフに覆いかぶさる分厚く重層的なレイヤー。気づけばもうパリスの音宇宙のただ中。
しかし、ツェッペリンと比較するのは失礼というものかもしれない。ヘヴィーなリフと取り憑かれたようにミスティックなメロディーが、脳の聴覚野に突き刺さる。それが頭蓋に反響し、脳髄が不思議に共振する。
このアルバムの魅力の一つはアルバム全編を貫くミスティックでオカルティックな歌詞だったりする。「ブラック・ブック」(Black Book)などその典型だが、そもそもこうしたソング・ライティングはウェルチの十八番(おはこ)だった。
とは言うものの、マックと言えばピーター・グリーン(Peter Green)もドラッグの影響下、ミスティックな歌詞を書き上げていた(※)。そして、ウェルチもスーパーナチュラル(超自然)でオカルティックな人生観や自然観をテーマに「バミューダ・トライアングル」(Bermuda riangles)や「ゴースト」(The Ghost)、と言った作品を書き上げて真骨頂を示した。
※「The Supernatural」(1967)「Black Magic Woman」(1969)「The Green Manalishi」(1970)など。なお、「The Supernatural」はPeter Green参加のJohn Mayall & The Bluesbreakers 時代の作品。
※実はグリーンやウェルチだけでなく、スティーヴィー・ニックス(Stevie Nicks)も超自然的な視点に共感するような「リヤノン」(Rhiannon)をヒット・チャートに送り込んだ。こちらは、もろメアリ・リーダー(Mary Leader)著の『Triad: A Novel of the Supernatural』(1973)の影響のもと、作られた。
個人的には『枯木』(Bare Trees)(1972)収録の「The Ghost」などはお気に入りで、ウェルチのヴォーカルと対位法で進行するメロトロン・フルートの妙に、なすすべもなくノックアウトされてしまった。
1999年のウェルチのインタビュー(※)によれば、このメロトロンはクリスティン・マクヴィー(Christine McVie)がプレイしているらしい。
※『The Penguin Q&A Sessions』Bob Welch, November 8 - 21, 1999
ウェブ上には、このメロトロンが「生フルート」だとか、まさかの「クラリネット」!という評があった。だが、これは恐らく、ウェルチがスクール・オーケストラで6年間クラリネットを吹いていた、という経歴からの想像ではないか。ウェルチは「クラリネットじゃ女の子にもてないことがわかったから、クラリネットはやめたんだ。」と、上記Q&Aセッションで告白している。
『枯木』がリリースされた頃は、フリートウッド・マックの低迷期と言われる。それでもこのアルバムはプラチナ・ディスクを獲得した。バッキンガム&ニックス(Buckingham Nicks)を迎えて大ブレークするマックだが、それに先立つ時期としては、本作が唯一のミリオン・セラー作。
その味のあるカバー・フォトを撮影したのは、ジョン・マクヴィー(John McVie)だった。英国の冬枯れの寂寥感がひしひしと伝わってくる。
マックの歴史をひもといてみると、ピーター・グリーン(Peter Green)は薬禍による精神変調。ジェレミー・スペンサー(Jeremy Spencer)はドラッグ漬けのあげく、新興宗教(The Children Of God)に入信するために脱退。
おまけに、『枯木』を最後にダニー・カーワン(Danny Kirwan)もマックを去ることになる。彼は作曲の重圧からストレスにまみれ、何日も食事を摂らず、ビールだけで生きていたという伝説がある。
そのカーワン。コンサート前のチューニングでウェルチと口論になり、拳やら頭やら自ら壁に打ち付け、愛用のレス・ポールまでぶっ壊した。唯一味方だったフリートウッド(Mick Fleetwood)まで敵に回したというから、そりゃ彼の居場所はなくなるはずだ。
ウェルチはマックの屋台骨としてのカーワンの才能は認めながらも、「煙草はせびるし、全くつきあいにくい奴だった。」とボヤいている。かくして、カーワンはアルコール依存症でクビ。本人も悲惨だったろうが、残された者たちも悲惨の二乗だろう・・・ショービズの世界、皆さん大変ですね。
とりとめもない話になりましたが、マックを巡る人間模様と痴話ばなしは、週刊誌ネタのオンパレード。せめてもの救いは、人間関係の泥沼とは無縁に、残された楽曲群が燦然と輝いていることでしょうか。
Robert Welch – Guitar, Lead Vocals
Glenn Cornick – Bass, Keyboards
Thom Mooney – Drums
<第31話 Fleetwood Mac 『Bare Trees』 (1974) へ>
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