第11話 Linda Perhacs 『Parallelograms』 (1970) US

今夜の一曲  Chimacum Rain


lp

 <Part1> 

 奇跡に近い偶然というものがある。その偶然がなかったら、このアルバムは世に問われることはなかっただろう。

 ある男が、ビバリー・ヒルズ(Beverly Hills.)にある歯科医を訪ねた。男の名はレナード・ローゼンマン(Leonard Rosenman)。

 彼はいわゆるハリウッドを代表するセレブの一人。映画音楽やTVテーマのフィールドでは、『トワイライト・ゾーン』(The Twilight Zone/1959)、『理由なき反抗』(Rebel Without a Cause /1955)、『エデンの東』(East of Eden/1955)、『ミクロの決死圏』(Fantastic Voyage/1966)などの作品に音楽を提供していた。

 1970年以降に彼が関わった作品を取り上げてみても、『続・猿の惑星』(Beneath the Planet of the Apes/1970)、『指輪物語』(The Lord of the Rings/1978)、『スター・トレックIV』(Star Trek IV: The Voyage Home-/1986)、『ロボコップ2』(RoboCop2/1990 )など、名だたる映画ばかりだ。しかも、アカデミー賞やエミー賞まで受賞している。

 その彼が通っていた歯科医院で、担当の歯科衛生士と雑談していた時のこと。衛生士の女性が実は音楽好きで、趣味で自作曲を録音していることを知る。レナードはそのデモ・テープを聴いてみた・・・その後は歴史の語る通りだ。その女性がまさに、リンダ・パーハックス(Linda Perhacs)であった。

 リンダがこの歯科医に勤務することになったきっかけは、大学の教授が誘ってくれたからだ。セレブ御用達の歯科医院だったらしく、リンダ自身もこれまで多くのセレブの歯のケアをしてきた。

 たとえば、ケーリー・グラント(Cary Grant)、ポール・ニューマン(Paul Newman)、ヘンリー・フォンダ(Henry Fonda)、ダイナ・ショア(Dinah Shore)など。だからこうしてレナードに出会えたのも、単なる偶然ではなく、何かの必然だったのかも知れない。

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<Part2> 

 LAにあるUSC(南カリフォルニア大学/University Of Southern California)在籍中、リンダ・パーハックス(Linda Perhacs)はFlower PowerやFree Loveとは無縁の学生生活を送っていました。

 この謎めいたアルバムも「ドラッグの一切の影響下にはなかった」と断言しています。とすれば、本作は彼女が言うところの「鋭敏な感受性」のたまもの、と言うべきものでしょうか。

 歯科衛生士の資格を得たリンダは、USC卒業後、学生結婚した彫刻家の夫と旅に出ます。そこで見聞きした経験を元に、彼女は自室のキッチン・テーブルで曲作りにいそしみました。それが 『Parallelograms』(1970) の原型となったのです。

 Part1で触れたように、大御所レナード・ローゼンマン (Leonard Rosenman) との奇跡的な出逢いがあり、頼もしい後ろ盾を得てレコーディングが始まりました。ドラムスにはジャズ界の実力者シェリー・マン (Shelly Mann) まで起用し、レコーディングには相当、力が入ったようです。

 ですが、Universal の子会社である Kapp Records のプロダクションは全てをぶち壊してしまいました。高低音が容赦なくカットされ、オリジナルのサウンド・イメージを台無しにしてしまったのです。

 Kapp の意図はAMラジオでのオン・エアーを意識して、耳にソフトな加工を施したのです。デビューアルバムがリンダのもとに郵送されて来た時、彼女はそれを聞いて心が砕け、アルバムをゴミ箱に投げ捨てました。ローゼンマンも、リンダも茫然自失でした。

 捕捉ですが、Kapp盤のレーベルはオレンジが通常ですが、何故かブラック仕様のものも確認されています。さらにKapp盤の「Chimacum Rain」のクレジットは何故か「Chimacum Come Rain」となっています。

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 その後『パラレログラム』は、人々の記憶から完全に忘れ去られます。そしてリンダも歯科衛生士の仕事に戻っていきました。

 それでも、この音源に触れることの出来たほんの一握りの幸運な人たちの支持を受け、『パラレログラム』は秘かに語り継がれていきました。そして、世が新しいメディアとネット環境の時代に突入するにつれ、リンダの唯一作への憧憬は一気に拡散していきます。やがて転機が訪れたのです。

 1990年代半ば、レア・サイケを発掘していた Wild Places Records (NY - Brooklyn) の Michael Piper が 『Parallelograms』を発見。マイケルは正式なリリースにこぎつけたかったのですが、どうしてもリンダとコンタクトが取れませんでした。そこで、強引にブート・リリースして「リンダと連絡を取りたい」旨のコメントをつけたのです。

 2000年当時、リンダは肺炎をこじらせて死の淵をさまよっていたのですが、奇跡的な回復の後、ようやく退院しました。すると、自宅に『パラレログラム』の海賊コピーCDが届いていたのです。

 そこには手書きのメモがあり、「あなたが私の探している本当のリンダでしょうか。あなたのアルバムを多くの人が聴きたがっています。是非とも連絡ください。」 "If this is the right Linda, I've been searching for you. Do you know people want this album? And if so, would you please call me?"と書いてあったと言います。こうして2003年、ボーナス付きの正式再発が決定したのです。

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 ちまたに「看板倒れ」は多かれど・・・本作は、まさにサイケ・フォークのマスターピースの称号にふさわしいですね。

 聞くたびごと、「すべてをかなぐり捨てて、この音にどっぷり浸かっていたい病」が再発します。病状が進行すると、思考の強制終了、記憶喪失、全身の筋肉の弛緩、社会不適応症候群、鼻血、失禁など・・・重篤な場合は、廃人になる危険性もあります。世界保健機構(WHO)のリスク・グループで言えば、まさにレベル4クラスですよ。

 でも、これはメンタルヘルスが低下するからではなく、あまりにピュアな世界に触れて無菌状態になった無垢な心が、外的ストレスに耐えられないことに起因しているのではないでしょうか。

 さて、今回取り上げた「Chimacum Rain」。Chimacum というのは、カリフォルニア北部のバンクーバー島に近い都市。オリンピック半島の森に吹き荒れた嵐にインスピレーションを得たようです。

 曲中に space out というフレーズが出てきます。この表現は「1970年が初出」と辞書に載っています。なるほど。我がリンダ、時代を先取りしてますね。

 加えてもう一曲、「Sandy Toes」について一言。この美しいラブソングは、最後の Verse の He said to me / Windy one / Five minutes / Can you / Spare me / For eternityのラインが美しすぎますね。

 今、私の頭は、このクリスタル・クリアな世界にくらくらしています。ああ、気絶しそうな予感がします。どうやら、これ以上、平常心でレビューするのは無理のようです。それでは皆さん、さようなら・・・

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Reinie Press / electric bass, guitar [Fender]
Linda Perhacs / vocals, guitar, effects [electronic effects],arranger
Leonard Rosenman / effects [electronic effects], arranger, producer
John Neufeld / flute, saxophone
Tommy / harmonica
Steve Cohn / lead guitar, twelve-string guitar, arranger
Milt Holland, Shelly Mann / percussion
Brian Ingoldsby - amplified shower hose for horn effects, engineer


<第66話 Linda Perhacs 『The Soul Of All Natural Things』 へ>
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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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