第114話 10cc 『The Original Soundtrack』 (オリジナル・サウンドトラック) (1975) U.K.

今夜の一曲  Life is a Minestrone 「人生は野菜スープ」


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<なぜか突然、スープ考>

おいおい、ちょっと待てよ。「人生は野菜スープ」って・・・? はて、不思議なタイトル。これは自分にとって長年の謎だった。

原題は「Life Is A Minestrone」=「人生はミネストローネ」です。でも、ミネストローネと野菜スープはイコール・・・ではありません。それに、野菜スープと聞いて思い浮かべるスープは、人それぞれでしょう。


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ホットなスープばかりじゃなく、スペインのガスパッチョや、アメリカのヴィシソワーズみたいに、冷製スープだってあります。でも、この曲をたとえ真夏に聞こうが、歌詞に歌われるスープは熱いスープでないといけません。そうでないと、次の節で歌われる「冷たいラザーニャ」の比喩が生きてこないのです。

単にスープと聞いて、あなたはどんなスープを思い浮かべるでしょうか。かなりの確率でポタージュとか、コンソメ、クラムチャウダーを思い浮かべる人が、多そうですね。


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スープは実にディープな世界。コンソメ? ブイヤベース? ポタージュ? 中華? はたまた和風? でも、この曲に関しては、スープのベースが何であれ、ミネストローネでなければ光らない。

そう、「人生はトムヤンクン」とか、「人生は味噌スープ」では困るんです。やはり、ここはエリック・スチュワート(Eric Stewart)がおっしゃるように、完熟トマトどっさりの熱々のミネストローネに、パルメザン・チーズをたっぷりかけて、まさに人生を食す勢いが大事なんです。


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まぁ、しかし、ミネストローネは野菜スープの一種だから、いいじゃん。とおっしゃる方もみえるでしょう。でも、野菜スープ=ミネストローネではありませんからね。この広い世界にはその土地土地の野菜スープがある。サムゲタン(参鶏湯)だってわたくし的には捨てがたいですし(ぶつぶつ・・・)。

しかも、この曲は後述のように、「ミネストローネ」をキーワードに作られた曲なんです。


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ではマーキュリー(日本フォノグラム?)の担当者はどうして「人生は野菜スープ」と翻訳したのか・・・それは簡単に想像できます。1975年の時点で、ミネストローネの何たるかを知っている人は、まずいなかったのだと思います。ミネストローネは日本でまだ市民権を得ていませんでした。

先日、某所の倉庫型量販店で、キャンベル(Campbell's)のスープ缶を目撃。それはミネストローネではなく、クラムチャウダーでしたが・・・なんと50oz(オンス)のデカい1.41kg缶×2パックでガツンと存在感をアピールしてました。キャンベルにはミネストローネのラインナップもあったはずなので、さっそく調べてみると・・・


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あったあった。キャンベルの濃縮スープ缶。「ミネストローネ缶」の野菜は、主役のトマト&トマト・ピューレ以外に、にんじん・ポテト・赤いんげん豆・さやいんげん・セロリ・キャベツ・ズッキーニ・玉ねぎ! まぁ、これにパプリカ・なす・アスパラガス・コーンなどを加えれば無敵でしょう。

さらにカペリーニとかのショートパスタとベーコンを混ぜ込み、パセリ、ローリエ、バジルなどで味を調えればパーフェクト。ホットなニンニクの効いたヤツが出来あがったら、最後の仕上げはスチュワートも言うように、パルメザン・チーズをごっそりかけて、熱いやつを、ふ~ふ~言いながら食べるわけですね。


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ミネストローネはトマト・スープの定番、イタ飯スープの中でも人気スープの筆頭。「人生はミネストローネ」という比喩が生きてくればこそ、冷蔵庫に突っ込まれたままの冷えてマズいラザーニャとの対比で「生」と「死」を喩えているのも、よーく理解できます。

個人的な恨みを言うわけじゃありませんが、自分はかつてイタリアを旅行したとき、お世辞にも小ぎれいとは言えないトラットリアでラザーニャを注文したら、冷え切ってとんでもないのが出てきてキレかかりました。そんなことを今でも親のかたきのように、覚えているなんて、食べ物の恨みは恐ろしいですね。


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ところでスチュワートがこの曲で描いた主人公は、時間と空間を自由に飛び回るディレッタントです。ディレッタントと言うのは、俗人でありながら、愛や学問・芸術を知ったかぶるスノッブのことですね。奔放で、放埒な人生を生きる主人公の彼にとって、まさに「人生」は何でもありのごった煮「ミネストローネ」と同義というわけだ。

ところで、スチュワートはどこからこの曲のヒントを得たのでしょう・・・ある日『オリジナル・サウンドトラック』のレコーディング・セッションを終えて、がロル・クレーム(Lol Creme)と車で帰宅途中のことでした。カー・ラジオでBBCを聞いていたら、アナウンサーが「ミ・・・ストローネ」と言ったように聞こえたそうです。


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「えっ?今、ラジオで『人生はミネストローネ』って言わなかった?」人生はまさに何でもありのごった煮スープ。その一方で「死」とは三日前に冷蔵庫にしまい込んだままのラザーニャみたいなもの。誰も食べたがらない。こんな想像にインスパイアされて曲作りが始まり、たった一日という勢いで曲が完成したようです。

日本に海外の缶詰スープが入ってきたのは、1951年のこと。1962年にはスープ製品の輸入が自由化されました。しかし、その味覚は日本人の舌に合わず、定着しなかったようです。1964年にはクノール社からスープ五種が発売されています。


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この時はじめて、日本人の食卓に本格的な西洋風のスープが紹介されたようです。当時発売されたクノールの商品構成は、マッシュルーム、オニオン・クリーム、チキン・クリーム、チキン・ヌードル、ビーフ・ヌードルの五種。けれども、その後の主力商品はコーン・クリームに移行します。

1960年代の日本のスープ市場はクノール社がシェア85%なので、クノールの商品ラインナップを見ていけば、1975年のアルバム・リリース時のスープ界を巡る事情は透けてみえそうです。1973年にはコーン・クリームがカップで登場していますから、依然としてコーン・クリームは主力だったのでしょうか。


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クノールの商品ラインナップにミネストローネがいつ登場したのかは、はっきりしませんでしたが、クノール・ギャラリーを見る限り、ひょっとして1990年代? まさか・・・そんなに遅くってことはないような気もしますが・・・。

そう考えていくと、1975年当時としては、あの曲のタイトル(邦題)は、やはり「人生は野菜スープ」しかなかったのでしょう。みなさんもミネストローネを食しながら、人生をエンジョイしてみませんか(笑)。


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Lol Creme – guitar, keyboards, violin, vocals
Kevin Godley – drums, keyboards, cello, vocals
Graham Gouldman – bass, guitar, vocals
Eric Stewart – guitar, keyboards, vocals




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テーマ : 洋楽
ジャンル : 音楽

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No title

こんばんは。
これ好きな曲です。昔渋谷陽一のサウンドストリートて10cc特集があって、録音したのを何度も聴いた覚えが。
ちなみに私が野菜スープで真っ先に思い浮かぶのはミネストローネですよ。コーンクリームには全く野菜感を感じませんです。トウモロコシは穀物→主食のイメージが強いのは、日本にメキシコ料理が浸透してきた証拠でしょうか?
ともあれ、10ccはポップな曲にちょっとヒネた歌詞が魅力ですね。

野菜スープ

こんにちは。そうでしたか、渋谷陽一のサウンドストリートで10cc特集でしたか。
ひょっとしたら、僕も聴いていたかもしれません(笑)。
確かに10cc、よく聴きました。
この曲はロルが書いた曲のようですが、グループのメンバーそれぞれ、ほんとに芸達者な人たちですね。
アルバムをめぐるアートや仕掛けひっくるめて、実に英国くささを感じます。
英国人にとって、イタリア発のミネストローネは彩りよく、ホットでフレッシュなイメージがあって、この曲にはとても大切なコンセプトだったのかも知れませんね!

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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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