第118話 Phil Manzanera 『Diamond Head』 (1975)

今夜の一曲  Frontera


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フィル・マンザネラの『ダイヤモンド・ヘッド』(1975)、『リッスン・ナウ』(1976)。クレジットを見て、いくつか思うところもあり、今回はそれを酒の肴に一杯。

一杯目はロバート・ワイアット(Robert Wyatt)。二杯目はイアン・マクドナルド(Ian MacDonald)。三杯目はブライアン・イーノ(Brian Eno)を肴に。え? どれもおいしそうじゃないって?


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<1杯目> ロバート・ワイアットの巻

まず、ロバート・ワイアットとフィル・マンザネラとの接点について見てみましょう。

ワイアットはオープニング・チューンの「フロンテーラ(Frontera)」に参加しています。彼はヴォーカルとティンバレス、カバサなどのラテン・パーカッションを鳴らしまくっています。スペイン語のヴォーカルもヨレた感じ。しかも途中から意図してか、ジャストをはずして歌っています。

彼がスペイン語で歌うのは、何も今に始まったことではありません。ソフト・マシーンの『Volume Two』(1969)の「Dada Was Here」などがそれです。本曲は、後半のチューニングをハズしたような唱法も'60sソフト・マシーンを引きずったかのようで、私などは知らず遠くをみる目つきになってしまいます。これはヤバいです。


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ラテン・フレーバーを持ち込んだのが誰のアイデだったのか、それはわかりません。しかし、フィル・マンザネラ自身もイギリス人の父とコロンビア人の母の間に生まれていますし、ベネズエラやキューバで育ったという環境要因もあって、ラテン要素は彼の遺伝子の一部なのかもしれません。

ワイアットとフィルの付き合いはいつ始まったのでしょう。少なくとも、ビル・マコーミック(Bill MacCormick)の母親の同僚(Honor Wyatt)の息子がロバート・ワイアットだったので、これまた狭い世界です。

ワイアットはビル・マコーミックとはマッチング・モール(Matching Mole)つながりですし、ビル・マコーミックはフィル・マンザネラとクワイエット・サン(Quiet Sun)つながりでした。


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<二杯目> イアン・マクドナルドの巻

さて、クレジットにあるイアン・マクドナルドとは何者なのか。担当楽器はバグパイプだ。ひょっとしてキング・クリムゾン(King Crimson)?と、最初思いましたが、これは違うでしょう。たまたま、クリムゾンのイアン・マクドナルドとは同性同名なだけかと。

どうやら、イアン・マクドナルド(Ian MacDonald)というのはペン・ネームで、本名はイアン・マコーミック(Ian MacCormick)。つまり、ビル・マコーミック(Bill MacCormick)の兄貴です。

そう、イアン・マコーミックは、イアン・マクドナルドの名前で音楽評論やライターとして活動していました。そして、クワイエット・サンの初期から、作詞の面でグループに貢献してきたといいます。


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さて、「フロンテーラ」のクレジットを見てみましょう。フィル・マンザネラ/ビル・マコーミック/ロバート・ワイアットの三人の連名作になっています。色々、調べ物をしているうちに、面白い資料に出会いました。

証言者はイアン・マクドナルドとあります。イアンの証言の中に「ビル」という人物が出てきます。最初はクリムゾンのイアン・マクドナルドと勘違いしていて、ビルブラがどうして?と思い込んでいました。でも、バンド・ヒストリーと照らし合わせると、イアンをビルマコの兄と想定した方が色々とつじつまがあってきます。

※ちなにみクリムゾンのイアン・マクドナルドのスペリングはIan McDonald。一方、イアン・マコーミックのペンネームはIan MacDonaldです。


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その証言によると、1970年にフィル・マンザネラがイアンの家に「フロンテーラ」の原曲を持ってきました。フィルは詞の部分のコードを作ってきて、イアンとビルが残りの曲を書き上げました。さらに、ビルが詞をつけた・・・

という事は、本作はフィルマン原作、イアマコ、ビルマコ兄弟との三人がかりで作り上げた曲です。

この曲が収録されていたのはロバート・ワイアットのソロ作『Ruth Is Stranger Than Richard』(1975)のサイド・ルース(Side Ruth)三曲目。クレジットはビル・マコーミック/フィル・マンザネラ/ロバート・ワイアットの共作になっていて、曲のタイトルは「Team Spirit」。

それを新たに解釈し直したものが『Diamond Head』の「Frontera」とされています。しかし、なぜかクレジットはフィル・マンザネラ/ロバート・ワイアットのみで、ビル・マコーミック抜き。おまけに、両者は全く違う曲に聞こえます。


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新たにワイアットがスペイン語で詞を書いたわけですが、不思議なことに、ワイアットの詞はビル・マコーミックの詞の西訳とは全く異なっています。

先に挙げたソフト・マシーンの『Volume Two』(1969)の「Dada Was Here」もドロップアウト・ソングなのか、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)への賛歌なのか、とらえがたい曲でした。同様に「Frontera」も"este actor"や"frontera"が何を象徴しているのか解釈に詰まります。実に悩ましき、謎多き曲ですね。

※デュシャンはニューヨーク・ダダの中心人物の一人。彼なくして20世紀美術は語れない、とまで言われています。


<三杯目> ブライアン・イーノの巻につづく


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Phil Manzanera - electric 6 and 12 string guitars, tiple, acoustic guitar, synthesized guitar, bass, string synthesizer, organ, piano, vocals
Robert Wyatt - vocals, timbales, cabasa, background vocals
Brian Eno - vocals, treatments, rhythm guitar, piano, percussion
Eddie Jobson - strings, fender piano, electric clavinet, synthesizer
Dave Jarrett - keyboards
Andy Mackay - soprano and alto saxophone, oboe
Ian MacDonald - bagpipes
John Wetton - bass, vocals, mellotron
Bill MacCormick - bass, vocals
Brian Turrington - bass
Paul Thompson - drums
Danny Heibs - percussion
Chyke Madu - percussion
Sonny Akpan - congas, percussion, bongos, big gong, maracas
Charles Hayward - percussion
Doreen Chanter - vocals




<第119話 Phil Manzanera / 801 『Listen Now』へ>

<第51話  Quiet Sun 『Mainstream』へ>
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ジャンル : 音楽

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No title

こんにちは。
Diamond HeadとPrimitive Guitars、どちらも愛聴盤です。
前者はアメリカのオルタナ系Yung Wuが『Big Day』をカヴァーしてて魅かれました。後者はブリジストンタイヤのCM曲もありますよね。

Re: No title

さすが、よくご存知ですね!そのカヴァー曲も、CMに使われたことすら知りませんでした。yuccalinaさん、いつもコメントありがとうございます!
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ticca

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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

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