第121話 Herbie Hancock 『Speak Like a Child』(1968)

今夜の一曲  Speak Like a Child


hh (5)


七歳の時にたった五ドルで買い与えられた、教会のおさがりのおんぼろピアノ。その少年が後に、ジャズ界を革新に導く先導者の一人になろうと、一体誰が想像できたでしょう。

マイルスのコンボでめきめき実力をつけたHerbert Jeffrey Hancockこと、ハービー・ハンコック。彼が1968年にリリースしたアコースティック・ジャズの傑作が『Speak Like A Child』です。

『Maiden Voyage(処女航海)』(1965)から三年。ハービーが『Speak Like a Child(スピーク・ライク・ア・チャイルド)』で試みたのは、今でこそオーソドックスな手法ながら、当時は意外性のかたまりでした。


hh (4)


メンバーはRon Carter(b)、Micky Roker(ds)に加えてThad Jones(Flh)、Peter Phillips(b-tb)、Jerry Dodgion(a-fl)の三管。ピアノ・トリオにスリー・ピースのホーン・セクションといえば、通常はtb, sax, tpあたりでしょう。それが、どういう訳か、聞いたことのない編成ですよね。

この構成こそ、まさに意図的とみるべきでしょう。そのソフトなトーンのホーン・セクションが、ハンコックのピアノに寄り添うようなアンサンブルを見せる。それを支えるリズム・セクションの躍動。驚くのは、三管フロントのインタープレイがないんです。アドリブ合戦にもつれ込まず、ソロパートの奪い合いにもならない。

あのサド・ジョーンズ(Thad Jones)が、よくぞこのパフォーマンス・ポジションを承諾したものだと思う。バンド・メンバー全員が同じ哲学を持っていないと、このセッションは破綻しかねなかった。どこまでも透明感のあるハンコックのピアノ、それを引き立てる叙情味あふれる緻密なアンサンブル。


hh (2)


この斬新なバンド・サウンドの構想を、ハンコックはどこから得たのか。もともとクラシックの素養のあった彼は、コンチェルト・フォーマットにヒントを得たのか、或いは、もっと直接的にマイルス・デイヴィス(Miles Davis)とコラボレートすることの多かったギル・エヴァンス(Gil Evans)の薫陶を得たのか・・・?

子供時代のいろんな思い出の断片が浮かんでは消えていく・・・そんなノスタルジックで謎めいた空気もある。この時期のアメリカ社会は激しく動揺していた。混迷激動の時代を見すえながらも、無垢な少年時代を内省的に振り返る・・・そんなハンコックのコンセプトがじんわり伝わってきます。

このあたり、同じくマイルス門下生のチック・コリア(Chick Corea)やキース・ジャレット(Keith Jarrett)とは異なる志向性を感じます。加えて、「ライオット」(Riot)や「ソーサラー」(Sorcerer)など、前年にマイルスとセッションした音源と比べても、手触り感が全く違って面白いですね。


hh (3)

マイルスとのコラボではクールなテンションがひたすらカッコよかった。ここではハンコックは音の一つ一つの色彩感を大切にした印象派的な音作りに徹します。本作でハンコックのとったアプローチは結構、計算づくだったのかな。こういう編成でこういうヴォイシングで迫れば、こういうムードになる・・・とわかった上での確信犯。

ドラムスからトニー・ウィリアムス(Tony Williams)をハズして、ブルー・ノートのお抱えドラマーのミッキー・ローカー(Mickey Roker)を起用したのもアルバム・トータルのイメージを考えての事でしょう。標題曲は、ちょっとボッサ入れてみました的な遊び感覚もあって飽きさせません。

ロマンチックなシルエット・ジャケの写真モデルの正体はご存知でしょうか。これはハンコックと、当時、彼の婚約者だったGudrun (Gigi) Meixnerとのことです。この夢見心地のジャケットが、本作を名盤の地位に高めるのに一躍買ったのは間違いないでしょう。


hh (1)


発売からまもなく半世紀。一向に色あせないみずみずしさ。私にとって、ハービー・ハンコックのカタログの中で、もっともよくひっぱり出すアルバムだということを告白しておかなきゃ(笑)。


Herbie Hancock — piano
Ron Carter — bass
Mickey Roker — drums
Jerry Dodgion — alto flute
Thad Jones — flugelhorn
Peter Phillips — bass trombone




スポンサーサイト

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

コメントの投稿

非公開コメント

ゲスト・ブック
Profile

ticca

Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR