第122話 Herbie Hancock / The Yardbirds 『Blow Up』 (欲望)(1966)

今夜の一曲  Main Title from Blow Up


blowup (3)


ミケランジェロ・アントニオーニ(Michelangelo Antonioni)と言えば『赤い砂漠』(1964)とか『砂丘』(1970)?それとも『欲望』(1966)? 不条理映画の筆頭にも挙げられるその『欲望』のサントラを、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)が担当した事はご存知でしょうか。

『砂丘』ではアメリカの破天荒なヒッピー社会を描き出し、ピンク・フロイド(Pink Floyd)やグレイトフル・デッド(Grateful Dead)の持ち歌がサントラに導入されました。

一方、英・伊合作の『欲望』のオリジナル・サウンド・トラック(OST)にはハンコックは勿論、ジャズ界のVIP陣を配したコンボの摩訶不思議な演奏が収められています。それ以外にも驚きの収録曲があるのですが、この点は後に触れてみましょう。


blowup (7)

この作品は、まさにモッズたちとドラッグとファッションのカルト映画。それにも関わらず、いや、それだからこそ、本映画はカンヌ国際映画祭のパルム・ドール(Palme d'Or)に選定されています。

パルム受賞作品と言えば『タクシー・ドライバー』(Taxi Driver)、『甘い生活』(La Dolce Vita)、『男と女』(Un homme et une femme)、『地獄の黙示録』(Apocalypse Now)など、実にそうそうたる作品が受賞の栄誉に預かってきました。

ネット上に予告編のクリップがあります。まさにシュールで難解な不条理映画そのもの。これは当時の世の中が現実と幻想とが「ない交ぜ」になっているというよりも、アントニオーニ自身が独自の世界観をドラッグの陶酔感と悪夢そのものに、映画というフォーマットに仕立て上げたと言うべきか。




その典型が、車で乗りつけた真っ白なフェイス・ペインティングのモッズ集団が、テニスのパントマイムに興じるシーンでしょう。主人公のカメラマン、トーマス(Thomas)もいつしか幻想の世界に迷い込んでいく・・・

トーマスのモデルは実在のファッション・カメラマンで、彼を巡るサスペンス・ストーリーは一切の謎解きを拒否する筋立て。登場するモデルは当時上り調子のフェルシュカ(Veruschka)ですよ。おまけにジェーン・バーキン(Jane Birkin)までちょい役しちゃっているので、ファンの皆さまはスクリーンに釘付けですね。

おっと、忘れてはいけません。この映画の最大の見所の一つが、ジミー・ペイジ(Jimmy Page)とジェフ・ベック(Jeff Beck)がツイン・リードを取るヤードバーズ(The Yardbirds)のライブ・シーン。曲は「Stroll On」ですね。え?「Stroll On」って何かって?


blowup (2)


元歌は「Train Kept A-Rolling」ですよ。収録にあたり、この曲の権利会社から多額の使用料を請求されたため、替え歌にしてライブ収録したのだとか。ペイジとベックのツイン・ギターが何故レアなのかと言うと、それは、本来の編成では、ペイジはベース担当だったからです。ベックが脱退して初めて、ペイジはギターに持ち替えたんです。

というわけで、このライブ映像はレアなわけですね。当初、出演を依頼されていたのはザ・フー(The Who)でした。しかし、「ギターを壊してくれ」というプロダクションからの要求に対して条件が折り合わず、ピート・タウンゼント(Pete Townshend)に拒否られた結果、ヤードバーズが大抜擢。

しかし、ベックはギターを壊し慣れてないせいか、タウンゼントのような迫力には欠けますね(笑)。いや、衝撃的なのはその後の展開。でも、わかる気がする。人間、欲しかったおもちゃを手に入れれば、次のおもちゃが欲しくなるものです。目的を達する迄の過程にこそ価値がある・・・

あ、何のことを言ってるのかと言うと、これですね。3分45秒のシーンです。




ハンコックとヤードバーズのオリジナル曲以外に映画で用いられたのは、ラヴィン・スプーンフル(The Lovin' Spoonful)のカバーが二曲、そしてトゥモロウ(Tomorrow)の曲が二曲です。

トゥモロウと言えば、スティーブ・ハウ(Steve Howe)がイエス以前に在籍していたグループとして知られています。プロデュースは何と『A Teenage Opera』のマーク・ワーツ(Mark Wirtz)先生。トゥインク(Twink)やキース・ウェスト(Keith West)もメンバーに名を連ねていたよなぁ。

全編スウィンギング・ロンドン(Swinging London)の強烈な匂いを閉じ込めたカルト映画ですが、まぁ、こんな街には絶対に住みたくない。でも、妙に安心してこの映画を鑑賞できるのは、映画上のロンドンが実際のロンドンとは異なる、実体のない架空の都市として描かれているからでしょう。


blowup (6)


ある意味、バットマン(Batman)の「ゴッサム・シティ」(Gotham City)や、マッド・マックス(Mad Max)の「バーター・タウン」(Barter Town)みたいなフィクション上の創造物に思えるからでしょうか。

さて、この映画はMGM配給なので、ハンコックのOSTもブルーノート(Blue Note Records)ではなく、MGM Recordsから発売されました。ハンコックはそれまで、フィルム・スコアを書いた経験はありません。しかし、アントニオーニがジャズ好きだったこともあり、ハンコックに白羽の矢が飛んできたのです(笑)。

時期的にはハンコックがマイルスとのコンボで活動していた頃ですが、ソロ作でざっくりくくると、『処女航海』(1965)と『スピーク・ライク・ア・チャイルド』(1968)の間にあたります。

彼は最初、ロケ地の英国ミュージシャンを使って曲を録音します。しかし、その出来映えに満足できず、本国のアメリカに戻ってからニューヨークで録音し直しています。その結果、集まったミュージシャンが、名うてのスター・プレイヤー達ばかり。


blowup (1)


『処女航海』で一緒だったフレディ・ハバードやロン・カーター。フィル・ウッズ、ジャック・ディジョネット、ジム・ホール、ジョン・ヘンダーソン、ジョー・ニューマン。

ハンコックはピアノ、スコア、アレンジ、コンダクターにクレジットされています。ジミー・スミス(org)のクレジットが思いっきり気になりますが、このオルガンは、セッション時にスタジオに居合わせたポール・グリフィン(Paul Griffin)とも言われています。まったくご機嫌なグルーヴを聴かせてくれますね。目尻が下がります。

幻想と現実とが錯綜するサブカル・フィルムながら、予告編のエンド・タイトルを見ると、ニューヨーカーやタイム誌、ニューズウィーク誌、ライフ誌等で「ベスト・ピクチャー・オブ・ザ・イヤー」のタイトルを授かったようです。


blowup (4)

大切なことを書き忘れていました。『欲望』の原題は『Blow-Up』。公園で逢瀬を楽しむ二人を撮った写真に写った死体を「拡大(Blow-Up)」するシナリオにちなんでいます。

メイン・キャラの二人のクレジットを紹介しないといけません。ジェーンがヴァネッサ・レッドグレーヴ(Vanessa Redgrave)。『オリエント急行殺人事件』(1974)や『ジュリア』(1977)で知られる名女優。

そしてカメラマンのトーマスがデヴィッド・ヘミングス(David Hemmings)でした。『バーバレラ』(1968)や『プロフォンド・ロッソ』(1975)などなど。『時計じかけのオレンジ』のアレックス(Alex)役の最有力候補の1人でもありました。

と言うわけで、次回の音楽夜話は・・・




Herbie Hancock: piano, melodica
Freddie Hubbard: trumpet
Joe Newman: trumpet
Phil Woods: alto sax
Joe Henderson: tenor sax
Jimmy Smith: organ
possibly Paul Griffin: organ
Jim Hall: guitar
Ron Carter: bass
Jack DeJohnette: drums

Except track 7 performed by the Yardbirds
Jeff Beck: guitar
Jimmy Page: guitar
Keith Relf: harmonica, vocals
Jim McCarty: drums
Chris Dreja: bass
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ジャンル : 音楽

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ラテンアメリカ十代小説ー「欲望」「パフォーマンス」等UKロックと映画を廻る話

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No title

ticcaさん、こんにちは。
こちらの記事トラックバックさせて頂きましたm(__)m
とは言え、私の記事はあんまり音楽のことは触れてないですがが。
原作(フリオ・コルタサル)がラテンアメリカの幻想文学ということで、アントニオーニ『欲望』に言及しておりますです。
、、にしてもヤードバーズは、ボーカルのキース・レルフがやっぱ影が薄いですねえ。そして、微動だにせず演奏を見てる客が不気味です。

Blow Up

多分初めましてだと思います。何度もお邪魔はしているのですが、コメントは書かせてもらうのは今回が初めてかと。遅れました、札幌のpoponta と申します。
まだ駆け出しです。どうぞよろしくお願いします。

さてようやく本題です。『BLOW UP』はVHSで持っていて何度か見ましたが、映画には疎いので、ちいとも解らん映画でした。解るのはジェフ・ベックとジミー・ペイジが出ていて思い通りの音が出ないとベックがギターを壊す、ということだけでした。今回ticcaさんの解説を読ませて頂き少し解ったような気がしています。近日中にもう一度見てみたいと思います。ありがとうございました。また来ます。

Re: Blow Up

Popontaさん、こんにちは。
拙稿をお読みいただき、ありがとうございます。
また、お読みいただいた方の率直な感想をいただき、とても励みになりました。
重ねて感謝いたします。
さて、「ちいとも解らん映画でした」というのは、まさにツボにはまった表現だと思います(笑)。
おそらく、この映画を見て「解る」方はみえないのではないでしょうか。かくいう私も・・・
アントニオーニも明確なメッセージを発信しているわけではないでしょうし、見る者も何かの意味を求めていたわけではないかもしれません。
おそらく、こうした映画は当時のリアル・タイムの世相を映して見ないとわからないかもです。
各賞を総なめにしたというのも、意味ありげですが、それが時代の空気だったのかもしれません。
それにしても、VHSをお持ちとはすごいです。



> 多分初めましてだと思います。何度もお邪魔はしているのですが、コメントは書かせてもらうのは今回が初めてかと。遅れました、札幌のpoponta と申します。
> まだ駆け出しです。どうぞよろしくお願いします。
>
> さてようやく本題です。『BLOW UP』はVHSで持っていて何度か見ましたが、映画には疎いので、ちいとも解らん映画でした。解るのはジェフ・ベックとジミー・ペイジが出ていて思い通りの音が出ないとベックがギターを壊す、ということだけでした。今回ticcaさんの解説を読ませて頂き少し解ったような気がしています。近日中にもう一度見てみたいと思います。ありがとうございました。また来ます。

Re: No title

yuccalinaさん、トラックバックありがとうございます。
『蜘蛛女のキス』や『百年の孤独』、懐かしく思い返しました。
ガルシア・マルケスの『エレンディラ』を文庫本で手に入れ、今でも本棚に置いてあります。
ベルトリッチの『暗殺のオペラ』の原作の話は知りませんでした。
おかげでこれまで断片的だった知識が色々とつながった思いです。
ありがとうございます。

No title

再びお邪魔します。
出来ましたら、トラックバックの返信をして頂けますでしょうか?そうすると、拙ブログのサイドバー(最新トラックバック欄)に、ticcaさんの記事が表示されますので。良かったら、宜しくお願い致しますm(__)m

さて、サイケデリックの時代になぜラテンアメリカ文学がもて囃されたのか、最近になってやっと理解したところです。当時はネイティヴアメリカンの呪術的な部分が、ファッションにも取り入れられていた、とイージーライダーを見ながらハッとしたんですね。キリスト教的価値観との対峙を意味していたんだなーと。

実を言えば、私がラテンアメリカ文学にハマったのは、サイケデリックロックリヴァイヴァルとは無関係で、もう少し後のワールド・ミュージックの時代でした。しかし、それも、サイケデリックの時代に持ち込まれたインド音楽等を思えば、既にその頃からワールドミュージックの萌芽があったんだなー、と思えてとても興味深いです。

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Re: No title

ありがとうございました。
的確なアドバイスで、すぐにわかりました。
いつも、いろいろ教えて頂き、感謝しています。
また、遠慮なく、助言してください。

Re: No title

yuccalinaさん、こんにちは。
一つ思い当たることがありました。
かつてNHKの『映像の世紀』を見ていて目からうろこだったのが、yuccalinaさんと同じ指摘だったんです。
60年代末の若者たちが戦おうとしていたのは、キリスト教的な価値観だったんですね。
そのキリスト教な価値観は往々にして保守的な思想や右翼思想と結びつく中で、異質な文化や異分子を潰しにかかろうとしました。
また、西洋音楽の視点とそれ以外の文化の枠組みの違いからルーティンを解体していくというのも、歴史の必然だったんでしょう。
ちょっと前にかじったPeter Trudgill氏のSociolinguisticsのエッセイに、言葉の作り出す世界観はその文化によって全く異なるというような指摘がありました。
たとえば、時制に厳格な言語は、それに対応する世界観を作り上げるので、西洋の言語圏の多くは同じような世界観を形成しやすい。
けれども、アメリカのネイティブや新大陸など、西洋とは異なった時制を持つ言語の人々は、全く違った世界観を持っている可能性がある・・・という内容だったと思います。
言葉だけでなく、リズムやタイム感覚に支えられる音楽も同様なんでしょうね。
以上、長々とすみません。
興味深いご指摘ありがとうございます。
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Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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