第123話 David Hemmings 『Happens』 (1967)

今夜の一曲  Anathea


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このアルバムの存在を初めて知った時には、さすがにぶっ飛んだ。デビッド・ヘミングス。この男はミケランジェロ・アントニオーニ(Michelangelo Antonioni)監督の『欲望』(Blow-Up)(1966)に主演した俳優だったからだ。

この曲、思いっきりサイケでラーガでヨレている。アルバム自体も商品価値ゼロなのか値千金なのか、判断に悩む異端の一発。一切の評価を拒否する勢いとはこのこと。これ、売れたのか?いや、こんなの売れるはずないじゃん!彼に歌の素養はあったのか?バックの演奏は一体何者?シタール弾きはどこのどいつ?英国人の彼がどうして米国でレコーディング?しかもMGMとは?

う~ん、本人の素性がわかってさえ、謎にまみれたアルバム筆頭だ。事実、歴史に埋もれた本作が脚光を浴びたのは、ヘミングスがこの世を去った2003年になってからのことだった。

いきなり歌手デビューだなんて、一体どんな成り行きだろう。なんて言うか、一介の映画俳優が、こういうアルバムをさらっと作っちゃうというのが文字通りミステリアスな時代ですね~。

それにしてもだ、『欲望』のあの碧眼の美青年が、このジャケではおっさん顔だ。どうしちゃったの? え? いらんおせっかいか。


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『欲望』が1966年、本作『Happens』が1967年。二つを結ぶ糸は何?その謎を解く鍵はアルバムがMGM Records からリリースされた事ですね。『欲望』はMetro-Goldwyn-Mayer配給なので、発売がその系列のMGM Recordsという訳だろう。

ヘミングスは俳優として世に出る前にはオペラを歌っていた経歴があった。彼の歌に対する憧れと、映画のプロダクション側からオファーの商業的な利害とが、磁石のように引き合った結果がこれなのか。

MGMはアルバムのプロダクションをジム・ディクソン(Jim Dickson)に依頼した。ジム・ディクソンって、あんた誰なのさ。実は何を隠そう、いや隠しはしないが、ザ・バーズ(The Byrds)のマネージャー氏であった。

てなわけでディクソンが呼び寄せたのが、ロジャー・マッギン(Roger McGuinn)とクリス・ヒルマン(Chris Hillman)というわけさ。当時、薬づけの彼らですからね、出てくる音は織り込み済みというわけ。

マッギンとヒルマンは映画『サンタモニカの週末』(Don't Make Waves)(1967)のオープニング・クレジットに流されるメイン・タイトルの「Don't Make Waves」のレコーディングでスタジオを訪れていた。そんな彼らにディクソンが声をかけたわけだ。


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ちなみに『サンタモニカの週末』にはトニー・カーティス(Tony Curtis)、クラウディア・カルディナーレ(Claudia Cardinale)、シャロン・テイト(Sharon Tate)らが共演するロマンチック・コメディ(ラヴコメ?)。

こうして、ハリウッドでレコーディング・セッションが始まった。The Byrdsの演奏とこのバッキングは趣が違う・・・と思います? いいえ、確かにデビュー当時のディラン・ソングを引用したような『ミスター・タンブリンマン』(Mr. Tambourine Man)(1965)や『ターン・ターン・ターン』(Turn! Turn! Turn!)(1965)の大ヒットとは実際ベクトルは違うかもしれません。

サード・アルバムの『霧の五次元』(Fifth Dimension)(1966)まではフォーク・ロックの先駆者としてのイメージが強いかも。でも、それ以降、The Byrdsは大化けする。サイケデリック・ロックの波をモロ受けたばかりでなく、ラーガ・ロックやスペース・ロック期を経て、陰の大番長グラム・パーソンズ(Gram Parsons)の加入によって、カントリー・ロック大会へと大きく舵を切っていく。

The Byrdsのコアなファンは、大ヒットとは無縁になってからのチャレンジあってこそ、彼らに心惹かれるのではないだろうか。ちょっと整理してみると、The Byrdsの『昨日よりも若く』(Younger Than Yesterday)が1967年2月。『名うてのバード兄弟』(The Notorious Byrd Brothers)が1968年1月。

・・・ってことは、ヘミングスの『Happens』が67年9月なので、二作の丁度中間にリリースされたアルバムです。そう考えると、『Happens』におけるマッギンとヒルマンの演奏スタイルには、無茶苦茶合点がいきますよね。


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つまり、当時、The Byrdsはフォーク・ロックの壁を打ち破ろうとしていた。ラーガ的な要素はまさにマッギンとヒルマンが持ち込んだのでしょう。ヘミングスもあの映画を地で行くようなサブカル男だったから、音を出す前からああいった帰結になるのは目に見えていた。

ま、そんなわけでサイケ・ラーガ、一丁上がりってな具合でしょうか。マッギンやヒルマンもドラッギーなお騒がせ男でしたし、『欲望』のシナリオも薬にまみれていたから、このアシッドなアルバムは皮肉にも予定調和だったわけです。スタジオの中はきっと、煙でもうもうとしてたことでしょう。

本曲のAnatheaはB1。ちなみにA1のBack Street MirrorはThe Byrdsを脱退したジーン・クラーク(Gene Clark)の未発曲のヴォーカルをヘミングスに差し替えたもので、アレンジはレオン・ラッセル(Leon Russell)という嬉しいプレゼント付き。

ヘミングスは翌年、あの『バーバレラ』(Barbarella)(1968)にも出演しているので、ジェーン・フォンダ(Jane Fonda)だけでなく、ヘミングスのご尊顔を是非とも探してみて下さいませ。

マッギンの12弦ギターもシタールも聞き所のアルバム。秀逸にして至高の駄作! それにしても、この商品として成立しないような、うさん臭くもうっとりするような作品を世に問う時代というのは、一体、何なんでしょうね。これぞ、永遠の謎なのだ。


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David Hemmings - Vocals
Chris Hillman - Bass
Roger McGuinn - Guitar
Nick Robbins - Synthesizer




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 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

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