第124話 The Byrds 『Fifth Dimention』 (霧の五次元) (1966) U.S.

今夜の一曲  Eight Miles High 「霧の8マイル」


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デビッド・ヘミングス(David Hemmings)の『Happens』を支えたマッギン=ヒルマンを擁する本家ザ・バーズ(The Byrds)の、サイケ・ロックの先駆けともされる「エイト・マイルズ・ハイ」。1966年3月14日の先行シングル・リリースを受け、彼らのサード・アルバム『霧の五次元』(Fifth Dimension)(1966年7月)に収録された。

The Byrdsは、1st『ミスター・タンブリンマン』(Mr. Tambourine Man)(1965)や2nd『ターン・ターン・ターン』(Turn! Turn! Turn!)(1965)のフォーク・ロックの枠から飛び出していく。彼らの進撃を予見するような挨拶状がわりの一発がこれだ。

クリス・ヒルマン(Chris Hillman)のベースにデビッド・クロスビー(David Crosby)のリズム・ギターが加わり、ロジャー・マッギン(Roger McGuinn)の12弦リードが入った瞬間、リスナーはすでに異空間に迷い込む。


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テリー・メルチャー(Terry Melcher)のプロデュースを外れて心労も多かったはずだが、楽曲のクオリティーは高い。クロスビーがツアー・バスに持ち込んだラヴィ・シャンカール(Ravi Shankar)のラーガと、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)のフリー・ジャズ。それを聴いたジーン・クラーク(Gene Clark)が構想を得た「霧の8マイル」(Eight Miles High)。

※コルトレーンの『インプレッションズ』(Impressions)(1963)の「India」が直接のインスピレーションの源泉だった。


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異種のジャンルを貪欲に吸収していくミュータントとしてのロックの面目躍如と言えるだろう。作曲のクレジットはクラーク、マッギン、クロスビーの連名。だが、クラーク没後に各自の貢献度に関してマッギン=クロスビーの新たな証言があり、それをめぐって諸説入り乱れたものの、基本的にはクラークの作品とされている。

このサウンド・レイヤーはフィル・スペクター(Phil Spector)の影響もありそうだが、コルトレーンのサックスのブロウを12弦のリッケンバッカーに置き換えて解釈したギター・ソロや、ラーガ風のドローンをイメージしたようなヴォーカルを含めたトータル・アンサンブルが特徴的。

けれども、この曲はビルボード・シングル・ヒット・チャートで最高14位止まり。おまけに、ドラッグ・ソングのレッテルを貼られて放送禁止処分に甘んじる。それがたたって、チャート・アクションが鈍かったという見方もあるが、基本的には曲の複雑な構造が災いした。当時は、2分半を越える曲は徹底的にラジオ局に敬遠されたし、プロダクション側も積極的なプロモーションには及び腰だった。


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「ミスター・タンブリンマン」(Mr. Tambourine Man)や「ターン・ターン・ターン」(Turn! Turn! Turn!)が全米No.1だったことを思うと、人気に陰りともとれる。しかし、この曲のトリップ感・浮遊感・昂揚感は異彩を放っている。

作詞・作曲の核となったのはバンドのソング・ライティングの要、ジーン・クラーク。だが、彼はグループ内での孤立感を抱えていたし、心の問題や飛行機での移動が苦痛だったため、この後すぐバンドを離れてしまう。

クラーク脱退の結果、他のメンバーの才能が開花するという福音がもたらされる。加えて、バンドの音はこれまでのフォーク・ロック路線(ビートルズ+ディラン)÷2から、より実験的なサウンドを志向することになる。ただ、クラーク時代に恵まれたチャート・ヒット路線からはこれ以降、疎遠になってしまったのも事実だ。


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ヴィレッジ・ボイス(Village Voice)誌は、「霧の8マイル」に「世界で初めてのラーガ・ロック」の称号を与えた。シングルのプロモーションにおいても、ロジャー・マッギンはインタビューにシタールを持ち込んでアピールしています。

しかし、実はレコーディングにシタールは使われていません。シタールを使わずに、ラーガの雰囲気を持ち込んだわけですが、なんのこっちゃですかね。


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ここで、よい子はちょっと疑問を解決しておきましょう。この曲は初のラーガ・ロックのタイトルを授与されたと書きましたが、腑に落ちない思いをした方もいたのではありませんか?というのも、すでにThe Beatlesのジョージ・ハリソン(George Harrison)が「ノルウェイの森」(Norwegian Wood)でシタールを導入してますよね。『ラバー・ソウル』(Rubber Soul)のリリースは1965年12月3日でした。

それに対してThe Byrdsの「霧の8マイル」は1966年3月のリリースです。ということは、The ByrdsはThe Beatlesの後塵を拝したということでしょうか。

実は、ここに興味深い事実があります。1966年3月リリースのシングルは、実はコロンビア・スタジオ(Columbia Records)で録音された再録音であり、オリジナル・レコーディングはL.A.のRCAスタジオで1965年12月22日に行われています。ですから、なかなか面白いタイミングですよね。


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ミュージシャン同士が互いに影響を及ぼし合うのは茶飯事でしょう。The BeatlesはThe Byrdsにインスパイアされて「If I Needed Someone」を書いていますし、The ByrdsはThe Beatlesの「Eight Days A Week」(1964年12月)にヒントを得て「Eight Miles High」のタイトルを最終的に決めたと言うエピソードさえある。

一世を風靡したラーガ・ロック。影響を受けたアーチストは星の数。ザ・ビートルズ、ドアーズ、ザ・ローリング・ストーンズ、サイモン&ガーファンクル、ザ・キンクス、トラフィック、ザ・ヤードバーズ、ドノヴァン、ジェファーソン・エアプレイン、クインテサンス、レッド・ツェッペリン、ザ・ムーディ・ブルース・・・。

西洋音楽と異なる、うねるような独特の時間感覚が、サマー・オブ・ラブ(Summer of Love)を掲げるミュージシャンの心を捉えたのでしょうか。


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Jim (Roger) McGuinn - lead guitar, vocals
David Crosby - rhythm guitar, vocals
Chris Hillman - electric bass, vocals
Michael Clarke - drums
Gene Clark - vocals, tambourine, harmonica
+
Van Dyke Parks - organ
Allen Stanton - string section arrangement







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No title

こんにちは。

デヴィッド・ヘミングスでコメ入れようか迷ったのですが、やはり真打が登場しましたね!

ビートルズとバーズの関係については、ロックドキュメンタリーの中で、マッギン本人が「ジョージの真似して12弦ギターにした」話をしてましたよ。それと、同じくマッギンが「ジョン・レノンはボブ・ディランから”歌詞に主張がない”と言われたのがショックで、作風が変っていった」とも言ってたので、何だかんだとお互いに影響されてたんでしょうね。

私も丁度イージーライダーを見直したりしてたとこなんで、バーズもまた聴いてみようと思います。

真打ち登場

こんにちは。なかなか深い話ですね。

そして、面白い話を教えていただき、感謝です。

当時は音楽の世界は新進気鋭の旗頭が群雄割拠という感じで、お互いに良い意味で自己主張をしながら牙城を築いていったんですね。まったく、うらやましい時代です。

この時代は当時にあっては全体像は見えず、現在にあっては証言する者があってさえ、相互の関連は想像の域を出ない限界を感じます。

それがまた興味の尽きない点でもあるのですが(笑)

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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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