第27話  Ibis 『Sun Supreme』  (1974) UK

今夜の一曲  Travelling The Spectrum Of The Soul


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アコギのアルペジオの序章から一転して、エマーソン風の凶暴なハモンドが暴れる二曲目がこれ。ヘヴィネスをたたえながら、時に叙情的に、そしてオーケストラルに展開していく。

 ニュー・トロルス(New Trolls)は『UT』(1972)発表後、ヴィットリオ・デ・スカルツィ(Vittorio De Scalzi)とニコ・ディ・パーロ(Nico Di Palo)が決裂。その分派の一方が、ニコが率いたイビス(IBIS)。

 このアルバムを次の三つの観点で見つめてみましょう。
①バンド名のIBISの由来
②Bサイドの「Divinity」を捧げた人物 Satguru Maharaj(And His Followers)
③分裂『UT』から和解『CONCERTO GROSSO N. 2 』への巧妙な戦略

 ①IBISは古代エジプトの聖鳥で、神の使者と信じられていました。和名はアフリカ・クロトキ。

 古代ギリシャの歴史家ヘロドトスの著書『ヒストリアイ(歴史 / Historiai)』には「古代エジプトでは、この鳥を殺めた者は死罪に処せられた」と書かれています。英語名をSacred Ibisと言うのは、古代エジプト思想が西洋へと伝播したからでしょう。

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 ②サイドBの組曲「Divinity」のクレジットには、「サトグル(True Master / 真なる導師?)マハラージと、その信者たちに捧ぐ」と書かれています(Dedicated To Satguru Maharaj And His Followers) 。

 う~ん、マハラージって誰?特定の人物を指しているのか、それともサンスクリット語に由来する、神の道を唱道する高位の導師に付与する称号一般なのか。

 固有の人物であれば、たとえばこんな推測はどうでしょう。1973年に『Who Is Guru Maharaj Ji?』という書籍が発行されてます。Guru Maharaji Ji(Prem Rawat)で知られるインド生まれの導師を指しています。

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 ディヴァイン・ライト・ミッション(Divine Light Mission)という関連の宗教組織が1972年には米国、ヨーロッパ、オーストラリアに開設されています。1973年には37ヶ国に拠点を広げました。

 1973年11月には『The Millennium '73 Festival』というイベントを、ヒューストンのアストロドームで開催しています。これは世界初のドーム球場でした。日本にドーム型球場がなかった時代、私も野球観戦に出かけましたが、その馬鹿デカさに仰天しました。「世界の七不思議」に次ぐ「世界八番目の不思議(Eighth Wonder of the World)」と形容されたのも納得です。

 世界最新鋭のドーム球場を借り切って、当時15歳のマハラージがイベントを開いたことが、世界のメディアの注目を集めたのは当然でしょう。イビスの『サン・シュプリーム』は1974年のリリースですから、タイミングとしては、これがマハラージの可能性はありますね。

 ナイジェリアのスピリチャル・リーダーで神の化身「黒いキリスト(Black Jesus)」と称される人物もマハラージと呼ばれています。彼も、プレム同様、ディヴァイン・ラヴ・ファミリー(Divine Love Family)あるいはディヴァイン・ライト・ミッション(Divine Light Mission)と呼ばれるコミューンを作って共同生活をしながら、宗教的&政治的なプロパガンダに力を入れてます。ただ、時代的に整合性があるかどうか不明です。

 他にも候補はありますが、よくわかりませんので、ここでは問題提起のみとします。ご存知の方がいましたら、教えてください。いずれにしても、イビスは宗教的なテーマを利用して組曲のコンセプトを組み立てたというわけですね。

 ③さて、最後に「和解」のための戦略の話でしたね。少しおさらいしてみましょう。ヘヴィなサウンドが際立つ『UT』のメンバー構成は次の通りでした。

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NEW TROLLS『UT 』(1972)
- Nico Di Palo / guitar, lead vocals
- Maurizio Salvi / piano, organ, synthesizer
- Frank Laugelli (Rhodes) / bass
- Gianni Belleno / drums, vocals
- Vittorio De Scalzi / guitar

 バンドの核となるVittorioとNicoが袂を分かちます。このうちVittorio以外の四人がNico派につきます。分裂というよりも1:4の分派ですね。そして、ハード志向の『?』の制作に入りました。

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Nico, Gianni, Frank, Maurizio『CANTI D'INNOCENZA, CANTI D'ESPERIENZA.../?』(1973)
- Nico Di Palo / guitar, vocals
- Maurizio Slavi / keyboards
- Frank Laugelli / bass
- Gianni Belleno / drums, vocals

 この編成がイビスへと発展します。『?』のヘヴィネスを追究したかったNicoですが、突如、ヘヴィ・シンフォに急接近した裏には、どうやら伏線がありそうです。私のいい加減なカンでは、前年の1973年にリリースされたYesの『海洋地形学の物語(Tales from Topographic Oceans)』とLed Zeppelinの『聖なる館(Houses Of The Holy)』です。Nicoはこの二作にかなり衝撃を受けたのではないでしょうか。

 『?』から抜けたGianniの穴を埋めるため、元Atomic RoosterのRic Parnellをリクルートします。これも時代を席巻したプログレの潮流に乗って、インターナショナルな成功を収めたかったからでしょうか。

 そして満を持してリリースされたのが、

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IBIS『SUN SUPREME』(1974)
- Nico Di Palo / vocals, guitar
- Maurizio Salvi / keyboards
- Frank Laugelli / bass
- Ric Parnell / vocals, drums

 イビスのセカンドは、MaurizioとRicが抜けて新メンバーに交替しています。

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IBIS 『IBIS』(1975)
- Nico Di Palo / vocals and guitar
- Frank Laugelli / bass
- Renzo Tortora / vocals and guitar
- Pasquale Venditto / drums and vocals

 一方、VittorioはN.T.Atomic Systemを結成しました。ニュー・トロルスの創設メンバーであるGiorgio D'Adamoを引っ張りました。方向性としてはプログ・ジャズ路線。

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『N.T. ATOMIC SYSTEM』(1973)
- Vittorio De Scalzi / guitar, flute, Arp synth, spinetta, vocals
- Giorgio D'Adamo / bass
- Renato Rossert / piano, Hammond organ, Moog, Mellotron, electric piano
- Giorgio Baiocco / tenor sax, flute, Eminent string emsemble
- Tullio D'Episcopo / drums - Ramasandiran Somusundaran / percussions
- Anna & Giulietta / chorus

 セカンドは、アンナとジュリエッタの名前がない以外は、同じフォーマットです。限りなく英国ジャズ・ロックに接近していきます。

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『TEMPI DISPARI』(1974)
- Vittorio De Scalzi / guitar
- Giorgio D'Adamo / bass
- Renato Rossert / keyboards
- Giorgio Baiocco / sax, flute
- Tullio D'Episcopo / drums

 彼らには二枚のアルバム以外に、ムソルグスキーをN.T.流ジャズ・ロックに解釈したシングル『Una Notte Sul Monte Calvo / Somewhere』が存在します。

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 さて、いずれにしてもVittorioもNicoも自分流で成功を収められなかった事に悩み、互いに歩み寄り、共同歩調を取ることになりました。

 いよいよ、NicoとVittorioの和解に伴って、新生ニュー・トロルスが誕生! クラシカル・プログ+Queen+CSN&Y etc.。何をやらせても絵になるこの器用さは何だ!?

 アンティパスト(前菜)からプリモ・ピアット+セコンド・ピアット(メイン・ディッシュ)、ドルチェ(デザート)までこってり。豪華リストランテ・トロルスのプレミアム・ハウス・ワインと共に・・・

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NEW TROLLS『CONCERTO GROSSO N. 2 』(1976)
- Nico Di Palo / guitar, lead vocals
- Gianni Belleno / drums, vocals
- Vittorio De Scalzi / guitar
- Giorgio D'Adamo / bass   
- Ricky Belloni / keyboards

 この和解は、巧みな戦略によってもたさらされた気がします。ポイントは、多数派閥を避けた絶妙な構成にあります。

 Nico派はNico(UT→?→IBIS)、Gianni(UT→?→Solo)の二人。GianniはIBISには参加していないので、Nico色が薄くなっているのがポイント。

 Vittorio派はVittorio(UT→N.T.Atomic System)、Giorgio(New Trollsの創設メンバー→N.T.Atomic System)の二人。GiorgioはUTのリリース時には脱退していたので、分裂劇の泥沼を知らないのでVittorio色が薄くなっているのがポイント。

 さらに巧妙なのは、ベーシストにFrank Laugelli(UT→?→IBIS)を引っ張らなかった点に尽きます。ここでもしFrankを選べばNico色が優位になり、バンドのバランスが崩れるからです。

 おまけにキーボードには、完全に中立の立場であるスゴ腕のRicky Belloniをヌオヴァ・イデア(Nuova Idea)からヘッド・ハントしています。これで派閥色を廃してバランスを取ると共に、才能豊かな新しい血を入れたわけですね。

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 さて、本記事のIBIS。『UT』のヘヴィネスを抽出したような『?』のレッド・ゾーンを打ち破り、一筋縄ではいかない曲展開を真骨頂とする必殺の一撃。イタリアの叙情をたたえながら、ヘヴィー・シンフォニックを極めた作風がひたすら眩しい。

 ただ、個人的にはイタリア語を捨てて英詩で歌った点と、冗長なドラム・ソロが惜しまれる。アルバム両面に1曲ずつ。SideAは4部構成の組曲になっていて、この曲はPart2にあたる作品。『Sun Supreme』...エスプレッソ飲んでるみたいに濃い一枚ですね。


- Nico Di Palo / vocals, guitar
- Maurizio Salvi / keyboards
- Ric Parnell / vocals, drums
- Frank Laugelli / bass



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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

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