第29話  Chick Corea   『Return To Forever』  (1972) US

今夜の一曲  Sometime Ago / La Fiesta


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 初めて聞いたのは学生時代。かれこれ四半世紀。なのに、色あせない魅力を感じます。印象的なスリーブ・デザインそのものの透明度の中、チックがファレルが静かに熱く燃え上がり、心地よい緊張感を演出していきます。

 チック・コリア(Chick Corea)のel-pのみならず、ジョー・ファレル(Joe Farrel)のflやsaxが絶妙。非の打ち所のないリズムセクション。粘っこさと軽妙さで勝負するスタンリー・クラーク(Stanley Clarke)のb。弾けるように躍動するアイアート・モレイラ(Airto Moreira)のds。ミスティックなフローラ・プリム(Flora Purim)のvoice。どこを切り取っても絵になります。

 1968年、ハービー・ハンコックがマイルス・デイヴィスの黄金のクインテットから離脱します。チックはその後任として、マイルスのコンボに参加。二曲のみながら『キリマンジャロの娘』(1968)に最初の足跡を残しました。

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 マイルスにRMIやフェンダー・ローズ(Fender Rhodes)を強要された当初、チックは自分の追究すべき音が見つからず、試行錯誤に苦しみました。当時は、きっとまだローズをどう活かすかが、見えていなかったのでしょう。いずれにせよ、チックは1968年から1970年のエレクトリック・ジャズを模索するMiles Schoolで多くを学びました。

 その後の活動においても、チックはCircleでの活動は楽しかったようですが、前衛ジャズでは所詮、金が稼げないことがわかっていたようです。

 彼が見つけた答はこれでした。難解さとは無縁の、明るく静謐な、それでいて熱いライト・ジャズ。ラテン・テイスト入ったサウンドは、軽やかで伸びやかで、生命の脈動を感じます。そんなサウンドには、ローズ・ピアノが見事に溶け合うことを知ったのでしょう。チックはあれほど嫌だったローズを、完全に自分のものにしたようです。

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 アルバム通して完璧に整合感あふれるサウンド・メイキングに徹しているかと言えば、そうでもなく、フリー・フォームに突入する直前で踏みとどまっていて大人を感じます。アコースティック感覚満載なのに、あれだけローズの存在感があるのも不思議。

 このアルバムを理解する上で、実は避けて通れないのが作詞を提供している詩人ネヴィル・ポッター(Neville Potter)の存在です。ネヴィルはサイエントロジー(Scientology)の信者でした。チックが前衛ジャズのCircleを捨てて、わかりやすいRTFのサウンド構想を得たのも、実はサイエントロジーの信仰からでした。

 信仰で人がどう変わるのか、それは私のような宗教に無頓着な人間には計り知れないことのように感じます。ただ、音楽に限らず、アーチストというのは、表現者なので、作品を通じてそのアーチストの世界観が立ち現れることは稀なことではありません。

 ただ、ミュージシャンに限って振り返ってみても、宗教によって世界観が広がり、新しい価値観がそのアーチストの創造力をプラスの方向に向けることばかりではなかったようにも思います。それが真逆のベクトルを持つと、表現者としての自分の首を絞めてしまう例も少なくありませんでした。

 信仰であろうとカルト的な思想であろうと、その呪縛に足を絡め取られ、最悪なケースに至っては、自らの命をあやめてしまった例も数限りなくあります。

 アーチストではないかもしれませんが、よく知られているように、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)も宗教によって自らのあり方を見つめ直して成功した人と言えます。
 
 ジョブスは、仏教や禅を通して新しい人生観と世界観を身につけたそうです。彼は学生時代、カリフォルニアの禅道場やZEN・センターに通いつめたそうです。

 ジョブズは禅道場で、日本の禅師から指導を受けました。彼は、曹洞宗の僧侶、乙川弘文(おとかわこうぶん)さんと出会って師事したそうです。奥さん(ローリン・パウエルさん)と結婚する時にも、仏教式で執り行い、乙川師がその式師を務めたほどです。

 ジョブズは、出家して日本に渡り、永平寺で修行したいと願いました。けれども、禅師はそれを思いとどまらせたそうです。そして、ジョブズが強い関心を抱いていた「ものづくり」の世界で仕事をしながら、禅の教えと関わる生き方をするよう勧めたそうです。

 ジョブズの業績の評価は人それぞれでしょう。けれども、彼の場合、宗教によって自己肯定感と社会貢献への自覚が芽生えたとするならば、それはそれで、人と宗教の関わり方としては望ましいものであったのかも知れません。

 チック・コリアも、リターン・トゥ・フォーエヴァーを書いた時点ではサイエントロジーとの相性は抜群だったのでしょう。

 さて、こうして振り返ってみると、チック・コリアは、前衛さとスペイシーなジャズ・フュージョンを追い求めるWEATHER REPORTやMAHAVISHNU ORCHESTRAとは、全く質感の違う世界を構築しました。

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 マイルス・スクール卒業後、文字通り初めて重要なマイル・ストーンを築いたとも言える『Return To Forever』。存在すること自体が奇跡のような名盤。こうして彼らのサウンドを聴くことが出来る幸運を、心から噛みしめたいものです。


Chick Corea / piano, electric piano
Joe Farrell / flute, soprano sax, tenor sax
Stanley Clarke / electric bass, string bass, guitar
Airto Moreira / drums, percussion
Flora Purim / vocals, percussion


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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

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No title

こんばんは。
メロウキャンドルの記事からこちらに飛んでみました。とは言っても私はジャズにはプログレ以上に疎いです。
サイエントロジー、SF小説家のファンタジーな宗教みたいですけど、あれが信じられるのも、一種の才能かもしれませんね。アイザック・ヘイズが信者だったのは、ちょっとショックでしたが。

ジョブズの話がとても興味深いです。私は仏教って宗教と言うよりは、哲学に近い気がしています。一部には原理主義的宗派やカルトが存在するのも事実ですが、仏教は神の存在も魂も否定してるし、そもそも、仏陀の存在すら否定しても良いくらいの寛容さを持っていますから。妄信を強要しないからこそ、日本人は神道と仏教の価値観を同時に持てているのかなと。



Re: No title

不思議ですよね、宗教って。人を結びつけることもあれば、逆に人を分かつこともある。

自分にとっても、スティーブ・ジョブズが禅と関わりがあったという話は意外でした。偉人さんだけに、多くの伝記や関連本が出ています。いつだったか、集英社から発行されている「世界の伝記Next」を読んだことがあります。実は、その本は子ども向けのまんが本なんです。そこに、ジョブズからの「成功への三つのメッセージ」が書いてありました。
①一生懸命になれる大好きな事を見つけよう。
②一緒に夢を追いかけてくれる仲間を見つけよう。
③失敗しても諦めずにやり続けよう。
なるほどですね。いつの時代にあっても、子どもたちには、大きな夢を抱いて欲しいものですね。
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ticca

Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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