第40話  Matching Mole - 『Matching Mole』 (1972) UK

今夜の一曲 Dedicated To Hugh But You Were Not Listening
        <その4> マッチング・モール編


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 ますますジャズに傾倒するソフト・マシーンの中で、ロバート・ワイアット(Robert Wyatt)は孤独感を深め、居場所をなくした。

『THIRD』(May 1970)のレコーディングで生じた亀裂。ロバートはケヴィン・エアーズ(Kevin Ayers)のホール・ワールド(The Whole World)への参加(Jul. 1970)や、ソロ・アルバム『The End Of An Ear』(Aug. 1970)の制作に気を紛らわせる。

 1970年の年末から『FOURTH』のセッション(Oct. Nov.1970, Jan.1971 etc.)が行われたが、時を同じくしてソフト・マシーン以外の活動が際立ってくる。

 モンスター級のメンバーを集めまくったトップ・ギア合唱団(The Top Gear Carol Singers) (Dec.1970)、ゲイリー・ウィンド(Gary Windo)とのプロジェクト、シンビオシス(Symbiosis)、デヴィッド・アレン(Daevid Allen)の『バナナ・ムーン』(Banana Moon)(Feb. 1971)、そしてキース・ティペット(Keith Tippett)のセンティピード(Centipede)『セプトーバー・エナジー』(Septober Energy)のためのセッション(Jun. 1971)。

 そして来るべき時がやってくる。ロバートがソフツを脱退することになったのだ・・・(Aug.1971)。

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 以降、ロバートは、さらに自分の活動の場所を求めて八面六臂の活躍ぶり。ゴング(Gong)に参加したり(Sep. 1971)、ニュー・ヴァイオリン・サミット(New Violin Sumit)(Jean-Luc Ponti etc.)に参加したのもこの頃(Nov.1971)。

 驚くべきは、アマルガム(Amalgam)、ゲイリー・バートン・カルテット(Gary Burton, Terje Rypdal, Neville Whitehead)、ドン・”シュガーケイン”・ハリス(Don Harris, Wolfgang Dauner, Volker Kriegel, Neville Whitehead)、ポール・ブレイ・トリオ(Paul Bley, Annette Peacock etc.)、キース・ティペットのカルテット(Keith Tippett, Elton Dean, Neville Whitehead)、ともステージにも立っているからビビる。(Oct~Dec.1971)

 っていうか、ロバート君、あなたは一体何がやりたいの? ジャズに傾倒するソフト・マシーンが嫌になったんじゃなくって、これって結局ヒューやマイクと価値観とかキャラが合わなかっただけじゃないの?

 事実、ヒュー(Hugh Hopper)は「ロバートは、僕やマイクとは正反対の性格。外交的で自己顕示欲が強くて、つきあいが広くて、アフォリズムをよく使うし、計算高いと思われるような話し方をする。オスカー・ワイルドだって、恐らく十年も一緒に仕事をすれば、うんざりする男だったに違いないよ。」と語る。

 マイクは「ロバートは変拍子を嫌がったし、本当に何をやりたいのかつかめなかった。俺たちの違いは結構長い間、内在してた。」と語る。

 一方、ロバートは「各人のバンドへの貢献についての考えは違いすぎた。ルーツも違うし。(中略)正直言うと僕は追い出されたんだ。僕の言ってることには偏見入ってるだろうけど。連中は僕の自惚れや飲酒癖を、仕方なく我慢してたしね。結局やめるしかなかったんだ。」と語っている。


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 マッチング・モール(Matching Mole)は、ソフト・マシーンを脱退したロバートが最初に作った自分のプロジェクト。「もっとシンプルな歌をやりたい」という発言の帰結は、何故かサイケ風味がかった浮遊感のあるアヴァン・ジャズだった。正確を期すと、歌モノとジャズ・ロックとエクスペリメンタルのシームレスな三部構成。

 ロバートはソロ第一作(The End Of An Ear)を作った時にも「僕は少し狂気じみたのが好きなんだ。(中略)最終的に行き着くところはロックでもジャズでもないんだ」と言っていた。

 声をかけたメンバーはクワイエット・サン(Quiet Sun)にいた旧友のビル・マコーミック(Bill MacCormick)、キャラヴァン(Caravan)をやめるところだったデイヴ・シンクレア(Dave Sinclair)、デリヴァリー(Delivery)~キャラヴァンと渡り歩いたフィル・ミラー(Phil Miller)。

 本作を語るのに、「オー・キャロライン」(O Caroline)をハズしたら叱られるだろうか。あのセンチメンタル・バラードは確かに名曲。これまでにも、多くが語られてきた。わざわざ私ごときがコメントするまでもないだろう。

 ただ、キャロラインが誰なのかについては触れておこう。「キャロライン」こと「キャロライン・クーン」(Caroline Coon)は、ロンドンをベースとするアーチスト(画家、写真家)であり、ヒッピー文化や第二次フェミニズム運動の活動家でもあった。

 ロバートは彼女の活動に、いたく感銘を受けていたらしい。彼女は、後にロンドンのパンク・シーン(The Clashなど)に大きく関与していくカリスマでもあった。クラッシュ(The Clash)のマネージャを担当したり、アルバムのデザインへの関与も含め、パンク・シーンに関わる著作も著した才媛である。


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 勿論、キャロラインにかさねて、自分が解雇されたソフト・マシーンへの思いをつづった、という解釈もあながちハズれてはいないと思う。

 さて、今回取り上げた「Dedicated...」。お気づきのように「to you」ではなく「to Hugh」になっている。曲のタイトルはミステリーだ。

 しかし、ヒュー・ホッパーに対する皮肉とか中傷、とばかり言えない部分がある。ロバートはソフト・マシーンを離れたものの、マッチング・モールの名をソフツからもらったり、何とツアーまで共にしている(Soft Machine, Matching Mole, Elton Dean's Just Us)(Jul. 1972)。

 まさに愛憎紙一重。そういう意味では、こういうことかも・・・ロバートの言葉だが「Hughはソフト・マシーンの中で不思議な力を持った存在。僕の創造性を本当に捉えてくれた」と言っている。それが、この曲の真意なのかはわからない。でも、そう捉えた方がファン心理としてはホッとするところですね。


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Robert Wyatt / drums, vocals, piano, mellotron
Dave Sinclair / Hammond organ, piano
Bill MacCormick / bass
Phil Miller / guitar
Dave McRae / electric piano

<その1> ロバート・ワイアット & ヒュー・ホッパー編へ
<その2> ロバート・ワイアットのソロ編へ
<その3> キース・ティペット・グループ編へ

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No title

こんにちは。私は高校時代に丁度ラフトレードが日本に入ってきて、一番最初に聴いたロバート・ワイアットの曲は「At Last I Am Free」です。兎に角歌声が大好きで、ソフツの事を知ったのは大分後のことでした。で、元同僚たちのロバート評が、全然イメージと違っていて面白かったです。やっぱり事故で半身不随になったことで、人間的にも変化があったのかしら?

ところで、定期的に覗きたいので、貴ブログを勝手にリンクさせて頂きました。問題あれば削除しますが。

Re: No title

 こんにちは。自分はホント、いつまでたっても大人になりきれない人なんです。そんな自分でも、ロバート・ワイアットを聞いていると、素直になれる気がします。不思議ですね。

 ロバートのように、冷静に世の中を見つめて自己表現できるような、そんな大きな人になってみたいものです。でも、何事にも努力は必要ですね。自ら求めないと、いつまでもなりたい自分にはなれませんから。

 ラフ・トレードにはいい作品がたくさんありました。インディペンダント・レーベルだけに、しっかり軸足を置いた活動をしていました。何ものにもとらわれない、自由な発想には憧れます。自分もそうありたいものです。

 ロバート・ワイアットはエルビス・コステロの書いた「シップビルディング」が大好きでした。

 さて、リンクありがとうございます。光栄です。今後ともよろしくお願いいたします。

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ticca

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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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