第52話  Nirvana 『All Of Us』(1968)UK

今夜の一曲  Rainbow Chaser


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<ピエール・フリテルの絵画の謎に迫る>


 「Rainbow Chaser」はニルヴァーナUKの三枚目のシングルで、2ndアルバム『All Of Us』のオープナーでした。華麗なオーケストラにまでフランジャーかけたりして、怪しさ倍増です。ビートルズの蒔いたサイケデリアの波は、まさに絶頂を迎えていました。

 本作は『ペット・サウンズ』(Pet Sounds )(1966.5)から『リヴォルヴァー』(Revolver)(1966.8)『サージェント・ペパーズ』(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band )(1967.6)、『マジカル・ミステリー・ツアー』(Magical Mystery Tour)(1967.11)直系の音と言っても褒めすぎではないと思います。

 フランスのTVでこの曲を演奏した時、ステージにはサルバドール・ダリ(Salvador Dalí)が居合わせて、Nirvana UKに黒ペンキをぶっかけたそうです。パトリックは後に、ダリのサインを貰わなかったことを悔やんだそうですよ。一方ではシルヴィア(Sylvia Schuster)の大切なチェロにもペンキがかかって大変だったとか。


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 Nirvanaは、基本的にパトリック・キャンベル・リオンズ(Patrick Campbell-Lyons)とギリシャ出身のアレックス・スパイロポロウス(Alex Spyropoulos)のプロジェクト。卓越したメロディ・センスを持っていて、欧州ではある程度成功したものの、英米では泣かず飛ばず。唯一、この曲だけがUKチャートイン。

 どの曲も単なる3分間ポップスを超えて、勿体ぶったような格調高さがウリ。「You Can Try It」は、ハープシコードやメロトロン、女コラを配して、バロックなのかネオ・クラシックなのか、不思議なテイストを持ったワルツ曲。独特の牧歌的な肌触りに軽妙さが溶けあって、不思議な空気。

 彼らのデビュー作『The Story Of Simon Simopath』(1967)はバンドとしての作品でしたが、本作の時点では、既にバンド形態としてのNirvanaは、ほぼ解体されていました。

 かくして、パトリックとアレックスのスタジオ・ワークを核として出来上がったセカンドは、デビュー作のようなコンセプト・アルバムではなく、キャッチーなメロディを誇る弾けるようなサイケ・ポップの宝石箱に仕上がりました。

 しかし、3分間のラジオ・ヒットを狙ったキャンディ・ポップの寄せ集めに見えながら、不思議に「何かあるぞ」感を漂わせている理由は、この妙ちくりんなジャケット写真とタイトルにあるような気がします。


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 で、このジャケ写真なのですが、これをアルバム・カバーにするアイデアを思いついたのはパトリックだったようです。この写真の正体は一体、何なのでしょう?

 彼がこの絵を見たのはドイツのブレーメンでした。ヒットラー(ナチ)のプロパガンダ映画にスチル写真として挿入されていたのが、この絵でした。あくまでも私の想像ですが、パトリックはドイツの「抵抗運動博物館」を訪れたのではないでしょうか。

 では、この写真の元になった絵画とは何なのでしょう。この絵が描かれたのはナチの時代ではなく、19世紀末に遡ります。パリス・サロンに掲げられたこの絵の作者は、フランス人の画家・彫刻家であるピエール・フリテル(Pierre Fritel)(1853-1942)です。

 絵のタイトルは『Les Conquerants』(The Conquerors/征服者たち)です。この絵に描かれた人物をよく見てみると・・・


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 ご覧のように、論理的にはあり得ない集合写真でしょう。あらゆる時代の軍馬。そして時を超えて集まった皇帝や武将たち。よく見ると、古代エジプトのファラオまでいますね。時に英雄と呼ばれつつも、その実態は、抵抗勢力の生き血を吸って権力闘争のトップにのし上がった、時の為政者のトップたち。

 彼らの周りに転がっているもの。それは、累々たる裸の死骸たち。死して報われるでもなく、単なる物言わぬ物体と化して、ただそこにある。そして、その屍の間を英傑行列する「英雄」たちの有姿(?)。しかし、彼らを歓迎してくれるはずの群衆の姿はありません。まるで、黄泉の国を行軍するような静けさに支配されています。

 絵画に描かれている人物が、わかりますか。左から順に、ラムゼス二世、アッティラ、ハンニバル、タメルラン。中央に占めるのがユリウス・シーザー。その右側から順に、アレキサンダー大王、ネブカドネザル二世、シャルルマーニュ(カール大帝)です。

 ちょっとおさらいしてみましょう。ラムゼス二世は古代エジプト王朝のファラオ。アッティラはフン族の王。ハンニバルはカルタゴの将軍。タメルランはティムール朝の建国者。シーザーは古代ローマの将軍。アレクサンダーはアレクサンドロス大王で、マケドニアの王。そして、ネブカドネザル二世は新バビロニア王国の王、カール大帝は西ローマ帝国の皇帝ですね。


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 作者のピエール・フリテルが絵筆を握った意図は、その本意が何であれ、見る者の心を強烈に揺さぶります。権力に飢えた人々が誇らしげに凱旋し、そのすぐ脇には屍の山。物言わぬ絵画がいかに饒舌であるかを実感します。

 ところで、この絵画は現在、どこにあるのでしょうか。実はこの作品は油彩で、色鮮やかに塗り上げられています。しかし、世に知られているのは白黒の複製のみ。カラー版はこの程度の粗悪なものしかweb上には見つかりませんでした。


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 調べてみると、1988年にある人物が、この絵をサザビーズ(Sotheby's)で競り落としていました。アート・ネット(artnet)で検索すると、過去のオークション歴(past auction)のコーナーに売買記録を見つけました。匿名の人物(undisclosed figure)がオークションで購入、とあります。

 それにしても、この絵画は474 x 678 cm. (186.6 x 266.9 in.)というばかデカいサイズ。これを購入された方は、個人で楽しむにせよ、一体どんなディスプレイをしてみえるのでしょう。まさか、私蔵にして死蔵というわけでは・・・まぁ、余計な詮索ですね(笑)


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 そういうわけで、パトリックの目に留まったこの絵画が、Nirvanaの『All Of Us』のカバーを飾ったわけです。ですが、この絵画とアルバムやタイトルとの関連が見えてこない点も、まさに謎。どなたか真相をご存知の方は・・・?

 私のそんな問いかけに、ネッ友のNさんは「サージェント・ペパーに触発されて歴史的著名人が並んでいる絵を使ってみたのでは。」と返してくれました。

 なるほど、そんな見方も出来ますね。『Sgt. Pepper's』の、あのスリーブ・デザインは、あまりにインパクトがありました。マザーズやストーンズなど、大御所たちがあからさまにパロったほど。パロディというより、オマージュといったところでしょうか。そして、Nirvanaも・・・?


<第100話 Nirvana U.K. 『Local Anaesthetic』 (局部麻酔) (1971) U.K.へ>


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Patrick Campbell-Lyons / guitar, vocals
Alex Spyropoulos / keyboards
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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

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