第57話  The Millennium   『Begin』  その1 (1968)  U.S.

今夜の一曲  I Just Want To Be Your Friend

<その1>ブライアン・ウィルソンとカート・ベッチャーをめぐる謎


mille1.jpg


 単なるサンシャイン・ポップと馬鹿にできない気品がありますね。この曲、かなり聞き込んだ思い出がある。スリーブ・デザインのアンティークなドイツの木版画が素敵だ。当時のメンバーのマイケル・フェネリーによれば、ジャケットにはザ・ミレニアムが夢みる、前向きな人生哲学(hope for a better time and place)が込められているようだ。

 ザ・ミレニアムの『ビギン』は、カート・ベッチャー(Curt Boettcher)のプロジェクトとして位置づけるべきだろう。彼のメロディ・メーカー、そして重層的なヴォーカル・ハーモニーの才は、有能なプロデューサのゲイリー・アッシャー(Gary Usher)が一目置いていたのもうなずける話だ。

 アッシャーはビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)のブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)の強力なパートナーだった。

 驚いたことに、アッシャーによると、ブライアンがサーフ・ミュージックを捨てたのは、カートとの出会いが発端だったと言うのだ。順を追って説明しよう。

 まず、アッシャーについて。彼は、ブライアンと「409」(1962)や「In My Room」(1963)などの共作者であり、サーフ・ミュージックやホット・ロッド・サウンドの仕掛け人でもあった。またThe ByrdsやPeanut Butter Conspiracyなど、プロデューサ業も波に乗っていた。


imr2.jpg


 1997年、サジタリウス(Sagittarius)の『Present Tense』(1968)が再発された。サジタリウスはスタジオ・バンドで、アッシャーがカートの才能を頼りに、制作&プロデュースした。そのブックレットに掲載されたアッシャーの回顧文が、大きな波紋を呼ぶことになる。


sag.jpg


 舞台設定は1966年春。アッシャーとブライアンがLAのスタジオ(Studio Three)に出向いた時、不思議な音を耳にする。その音はカートのスタジオ・ルームから漏れていた。カートは丁度、Lee Malloryの「That's The Way It's Gonna Be」(1966)のプロデュースをしていた。(このスタジオではThe Beach Boyの『Pet Sounds』、The Mamas and the Papasの「California Dreaming」、Scott McKenzieの「San Francisco」などが収録されている)


lee.jpg


 カートの作り出したサウンドを目の当たりにしたブライアンは、まっ青になったと言う。自分よりも「何光年も先んじた音」(light years ahead of him)を創造するカートのセンスに打ちのめされ、その後一週間は、その話ばかりしていたらしい。これがきっかけになって、ブライアンはサーフ・ミュージックに別れを告げたと言うのだ。

 カートの影響力が、ブライアンのその後の音楽志向を決したという説は、今ではタイム・ライン的に齟齬(そご)があるという線で落ち着いている。と言うのも、1966年春というのは、ブライアンがまさに『Pet Sounds』(1966)の仕上げにかかっている時期だったからだ。


Pet.jpg


 アッシャーの言葉の引用は1988年のものだ。これは、カートの没後1年にあたる時期だった。そのタイミングから、アッシャーがカートの評価をアップさせるためのストーリーを作り上げたのではないか、というのが定説となりつつある。

 アッシャーは1969年、コロンビア(Columbia Records)を解雇されてから、カートと共に独自のレーベル(Together Records)を立ち上げた。そうした深い関係を背景に、アッシャーは史実を歪めたのだろうか。

 だが、そうとも断言できない興味深い指摘もある。それは、前述のLee Malloryの「That's The Way It's Gonna Be」(1966)に使われたのと同じSEが、後のビーチ・ボーイズの「英雄と悪漢」(Heroes And Villains)(1967)の完全版に登場するという指摘だ。


heroew.jpg


 この「英雄と悪漢」は『Smily Smile』(1967)に収録された編集版ではなく、ブライアンが20回にも及ぶ「英雄と悪漢」のパラノイアックなレコーディング・セッションに残した膨大なマテリアルのうち、いわゆる"In The Cantina" Sessionの冒頭のSEを指している。これをどう捉えたらいいのだろうか。(「英雄と悪漢」 のツー・パート・エディット(two-part edit version)のうち、Part Oneの1'55"からの10秒間?)

 アッシャーは1990年に死没している。ブライアンが記憶の糸を辿って証言でもしない限り、真相は闇に葬られたままだろうか。

<その2>カート・ベッチャー/栄光と挫折へ

Curt Boettcher / Vocals, guitar,
Lee Mallory / Vocals, guitar
Sandy Salisbury / Vocals, guitar
Joey Stec / Vocals, guitar
Michael Fennelly / Vocals, guitar
Doug Rhodes / Bass, harpsichord, piano
Ron Edgar / Drums, percussion
スポンサーサイト

テーマ : 洋楽ロック
ジャンル : 音楽

コメントの投稿

非公開コメント

ゲスト・ブック
Profile

ticca

Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR