第63話  Rolling Stones 『Their Satanic Majesties Request』 (サタニック・マジェスティーズ) (1967) U.K.

今夜の一曲  2000 Light Years from Home (2000光年のかなたに)


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 ブライアン・ジョーンズの叩きつけるようなピアノの不協和音がテープの逆回転に引き継がれ、曲調がメロトロンに支配されると、ローリング・ストーンズの異端審問が始まる。

 しかしこのアルバムは一体何なんだろう。チャート・アクションはハナマル印だったものの、ローリング・ストーン誌(Feb. 1968)には「ストーンズ、存在の危機!」とまで酷評された。

 ファンたちは、本作(Dec. 1967)が、ザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band)』(June 1967)の物まねであることを問題視した。しかもコピーの出来損ない扱いだ。「ビートルズがグッド・トリップなら、これはバッド・トリップだ。」とまで吊し上げた。


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 だが、ニューヨーク・タイムズ紙(April 1968)は「イマジネーションの欠如」と切り捨てながらも、一定の評価を下すなど、どのような通知表をつけるべきか迷っていたフシもある。

 発売からまもなく半世紀が経とうとする今、『サタニック・マジェスティーズ』は確固たる地位を確立したように思われる。サイケデリック・ブームに花開いたストーンズ流のアシッド・スペース・トラベル。こいつは痛快だ。

 時代の花形写真家マイケル・クーパー(Michael Cooper)を起用。彼はまさに『サージェント・ペパーズ』のカバーを撮影した人物でもある。ストーンズにとって、初のギミック・カバー。『サージェント・ペパーズ』をモロに意識したようなアルバム写真が、レンチキュラ(lenticular)仕様の3D構造になっている。なかなか採算が取れず、再発ごとに写真だけの規格に戻ったりで、色んなヴァージョンがマニア泣かせ。


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 当時、ストーンズは中心メンバーの三人(ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ブライアン・ジョーンズ)がドラッグ濫用で刑務所に収監されていた。この曲の詩もミックが刑務所で書いたという曰く付き。うんざりしたプロデューサのアンドリュー・オールダム(Andrew Loog Oldham)にも夜逃げされた。ストーンズ解体の危機にありながら、彼らをつなぎ止めた何かがここにある。

 このアルバムの空気を決っしたのは、ブライアンのメロトロンやダルシマやフルート。だが、彼は本作のコンセプトにはとことん反対だったという不思議譚。ブライアンは、もっとブルース・ルーツな曲を演りたかったんだ。

 だが結果として、悪魔の落とし子のように、覚醒と陶酔を繰り返すシュールな音像が姿を現した。キースやミックこそがキー・パーソンなのは明白だが、ニッキー・ホプキンス(Nicky Hopkins)やジョン・ポール・ジョーンズ(John Paul Jones)の、ゲスト参加を超えた存在感も天晴れだ。


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 そうは言っても、コアなストーンズ・ファンはこれを忌み嫌った。その一方、ストーンズ嫌いの手合いは、本作だけは積極的に評価するという真逆な事態すら生じた。さすが彼らもこれは失敗作だと感じたようだ。

 ストーンズはジミー・ミラー(Jimmy Miller)をプロデューサに迎え、次作の録音に入る。それが『ベガーズ・バンケット』(Beggars Banquet)(1968)だった。彼らはきびすを返して先祖返りする。

 サタニック・セッションで録音されながらも、アルバムより先行リリースされた「この世界に愛を(We Love You)」(Aug. 1968)は、「愛こそはすべて(All You Need Is Love)」(July 1967)と兄弟の関係だと、ジョン・レノンが1970年のローリング・ストーン誌のインタビューに答えている。それを裏付けるように、相互にミックとキース、ジョンとポールがコーラスで参加していたりする。


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 本作のタイトルは、当時、英国パスポートの最初のページに記載されていた 'Her Britannic Majesty's Secretary of State requests and requires in the name of Her Majesty all those whom it may concern to allow the bearer to pass freely without let or hindrance and to afford the bearer such assistance and protection as may be necessary.' のパロディだと言われている。

 日本のパスポートで言うと、『日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する。日本国外務大臣』の部分ですね。


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 さて、かつてWeb上にあった「2000光年のかなたに」の動画。ミックが奇妙な帽子被ってメイクして登場。他のメンバーもいかにも不健康。でも不思議なのは『Super Stars in Concert 73』と銘打ってるくせ、何故か死没したはずのブライアンがいたりする。

 これは心霊現象か?はたまた、2000光年のかなたから飛んできたか。くわばらくわばら。でも、ご心配なく。中味はどうやらプロモ・クリップの流用だったようです。これがそのプロモ動画です。




 公式記録によると、「2000光年のかなたに」がライヴで演奏されたのは二回のみ。1989年~1990年のワールド・ツアーと、2013年のグラストンベリー・フェス(Glastonbury Festival)のみです。ですから、1973年に同曲をライブ演奏したという史実はなさそうです。

 長生きしてみると(?)いいこともあるもので、当時のセッションの音源が、幸か不幸か、怒濤のブート・ボックス・セットで明らかになりました。本作のレコーディングは、「She's A Rainbow」の次が「2000 Light Years From Home」、続いて「Citadel」というように、取り憑かれたようにフリーキーになっていったようです。時代を包む空気が今と違いすぎていて、まじめに捉えると発狂寸前になりますね。

 最後になりますが、ザ・ビートルズの曲で、「Scrambled Egg(炒り卵)」と言えば「Yesterday」でした。曲が完成する前にメンバー間で呼び合っていた符牒のようなものです。同じように、ストーンズの曲で「Acid in the Grass」が「In Another Land」、「Flowers in Your Bonnet」が「She's a Rainbow」、「Toffee Apple」が「2000光年のかなたに」だったようです。こうしたトリビアが、いかにもサイケな時代に彩りを添えますね。


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Mick Jagger / lead and backing vocals, percussion
Keith Richards / guitars, backing vocals
Brian Jones / Mellotron, keyboards, guitars, flute, brass, soprano saxophone, electric dulcimer, recorder, percussion
Bill Wyman / bass guitar, percussion, backing vocals, piano; lead vocals on "In Another Land"
Charlie Watts / drums, percussion, tabla

Plus
Nicky Hopkins / piano, organ, mellotron, harpsichord
John Paul Jones / string arrangement on "She's a Rainbow"
John Lennon and Paul McCartney / backing vocals and percussion on "Sing This All Together"
Ronnie Lane / backing vocals and acoustic guitar on "In Another Land"
Steve Marriott / backing vocals on "In Another Land"
Uncredited musicians / strings


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テーマ : サイケデリック
ジャンル : 音楽

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No title

こんばんは。
このアルバムい最初に思い浮かぶのは、やはりShe's The Rainbowですね。アップルのCMのお陰でもありますが。

ブライアン・ジョーンズが乗り気でなかったのは意外でした。その後のソロ「ジュジュカ」は勝手に延長線上だと思ってましたわ。

ジュジュカ!

yuccalinaさん、こんにちは。

ジュジュカ、さすがよく知ってますね!ラジオ番組でジュジュカがかかったことがあって、それでブライアン・ジョーンズを見る目が変わったことを覚えています。

当時の僕は『サタニック・マジェスティーズ』とかも聞いたことがなく、「なぜにストーンズのブライアン・ジョーンズが?」と不思議に感じた覚えがあります。それがきっかけで、モロッコに興味を持ち、旅行にまで出かけちゃいましたよ(笑)。

ジュジュカのアナログ盤を中古盤屋さんで見つけた時には、「やった~!」って興奮したものです。ホント!(笑)

No title

再びお邪魔します。

サイケデリックとインドを中心とする民族音楽の繋がりを知ったのは、結構最近のことです。映画「ウッドストック」のDVDを、ヨギーのスワミ・サッチーナーダナンダが見たくて買ってしまってからです。(記事のURL貼っておきますね)

ヨガの最初のブームはヒッピー・ムーヴメントの頃で、マリファナがバラモン教の儀式に用いられていたという歴史とも関係あります。ビートルズがインドを訪れ、ジョージがラヴィ・シャンカールからシタールを教わったりと、ロックもインド音楽と関わっていきます。

ブライアン・ジョーンズがなぜモロッコに辿りついたのかは分かりませんけど、民俗音楽に寄って行ったのは、インドブームと無関係でないと思っています。

Re: No title

yuccalinaさん、こんばんは。

スワミ・サッチダーナンダですか。なるほど、yuccalinaさんにとっては、ハズせないところですね!そういう視点で映画「ウッドストック」を見つめたことがなかったので、目からウロコというところです。教えて頂いて、ありがとうございます。URLもありがとう。

欧米ではヨガの原点の一つが、ここヒッピー・ムーブメントにさかのぼるとは知りませんでした。この世界、知れば知るほど深いですね。

サイケデリックに絡んで、当時、ラーガ・ロックも一世を風靡する勢いでした。それと同時にファッションだけでなく、オリエンタルでミステリアスな思想も若者の心を捉えたようです。いつの時代であっても、ストレス・フリーでいることは難しいですから。心と体を真の意味で解放してくれるものを求めるのは、人の常ですね!



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Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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