第65話  The Jimi Hendrix Experience 『Electric Ladyland』 (1968) U.S.

今夜の一曲  Burning Of The Midnight Lamp


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 『ジミ・ヘンドリックス~エレクトリック・ジプシー(Jimi Hendrix - Electric Gypsy)』などの著者として知られるハリー・シャピロ(Harry Chapiro)氏に言わせれば、「この曲は内省的でメランコリックで、ジミはやっぱ色々ためこんでたんだろう~な。」って事になる。真夜中に独りランプを灯し続けるジミの心中の寂寥感や孤独感・・・確かに象徴的ですね。

 レコーディングも思うに任せなかったんだろうけど、ジミは初めてワウワウ試したり、自らハープシコード弾いたりで、チャレンジャーぶり発揮してます。R&Bグループのスウィート・インスピレーションズ(Sweet Inspirations)のコーラスをオーバーダブ。『エレクトリック・レディランド』に先立ち、1967年8月シングル・リリースされています。


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 さて、ジミのセカンド・アルバムまでを担当したマネージャのチャス・チャンドラ(Chas Chandler)を引き継いだのは、マイケル・ジェフリーズ(Michael Jeffreys)。彼には黒い噂がつきまといました。

 ジミは、自分たちがジェフリーズの集金マシーンであるように感じていました。ジェフリーズがグループの稼いだ金を持ってトンズラした、という噂も。ジミは、ジェフリーズとのマネージメント契約を破棄したかったようです。

 そうこうするうち、1970年9月18日。西ロンドンのサマルカンド・ホテルでジミの死が確認されました。彼が発見された部屋は、モニカ・ダンネマン(Monika Dunnemann)の名義でした。モニカはジミと知り合って、まだ数日来の関係。睡眠薬の過剰摂取と、多量のアルコール。吐瀉物(としゃぶつ)による窒息。ジミの検死結果は事故死と結論づけられました。


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 救急隊がジミのもとに駆けつけた時、彼は既にホテルの一室で意識を失っていました。検死官の発表によると、バルビツール系の睡眠薬の過剰摂取。胃だけでなく、肺も赤ワインで満たされていて、嘔吐によって窒息したようです。このバルビツール系睡眠薬というのは管理が難しく、現在は睡眠薬の主流ではありません。

 さて、ジミが没して約40年が経過しようとする2009年5月、とんでもなくショッキングな暴露本が出版されました。それは、事故死と思われていたジミの死が、実はある人物の謀略による暗殺だったという説でした。

 それによると、ジミはマネージャのマイケル・ジェフリーズに暗殺されたと言うのです。著者はジェームズ・タッピー・ライト(James Tappy Wright)。タッピーはアニマルズ(The Animals)のローディーでした。ジミの他にも、アイク&ティナ・ターナー(Ike & Tina Turner)のローディーも務めた人物です。


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 タッピーの著書『ロック・ローディ(Rock Roadie)』(May 2009)によると、1971年ジミの死後、タッピーとジェフリーズの二人が飲んでいた時、ジェフリーズが「実は、ジミを殺したのは俺なんだ。」と告白したと言うのです。

 これまでにもジェフリーズのイカサマ師ぶりが取り沙汰されていましたが、ジミも契約関係を精算したいと考えていました。一方、ジェフリーズは自分が新しいマネージャにすげ替えられるのではないかと懸念していたようです。そこで犯行に及ぶ直前に、$2,000,000の生命保険をかけた上で、ジミを暗殺したと言うのです。

 ジェフリーズがタッピーに語った話によると、ジェフリーズはギャングを使って一握りのスリーピング・ピルを赤ワインでジミの口に流し込んだと言います。

 しかし、その後1973年3月5日、ジェフリーズはイベリア航空機の衝突事故でフランス、ナントの上空で事故死してしまいます。さらにジミと懇意だったモニカも、1996年になって排ガス自殺。ジェフリーズは本当にジミを暗殺したのでしょうか。真相を知る術は完全に断たれたように思われますね。


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 そうこうするうち、タッピーの『Rock Roadie』に対する反論が現れました(2011年5月musicradar)。ジミの暗殺説はタッピーが著作を売るためのデタラメだと言うのです。タッピーによる「ジェフリーズのジミ暗殺説」に異議を唱えたのは、ジェフリーズのビジネス・パートナーのボブ・レヴィン(Bob Levine)でした。ジェフリーズがジミのUKマネージャとすれば、レヴィンはUSマネージャ。

 タッピーとレヴィンは60年代から交流がありました。タッピーは、自分のロック界での経験をもとに本を書くためには、何か強力なウリが必要だと感じていました。彼は情報を求めてレヴィンに相談を持ちかけました。そして蓋をあけてみると『Rock Roadie』に「ジェフリーズがジミを殺した」という記事が載っていたのです。

 レヴィンは、ジミの死はあくまでも公式見解通りの事故死だと言明しています。ジミは、翌日ドイツに発つために、睡眠を取りたかったようです。ジミは不眠に悩んでいて、この夜、モニカがジミに睡眠薬を渡しています。これに、赤ワインによる酩酊が加わり、ジミの死亡の原因となったのだと推論しています。


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 レヴィンによれば、ジミが亡くなった時、彼は一人でモニカは不在。誰が救急車を呼んだかわからないと言っています。でも、レヴィンの証言とは逆に、現場のサマルカンドのフラットにいたモニカが救急車を呼んだ、とも言われています。いずれにせよ様々な証言が入り乱れて、事実は混沌としています。

 ジェフリーズがジミにかけた保険についても「エージェントがスターに保険をかけるのは当然のことだ。」としています。一例として、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)に、彼のセルフ・レーベルであるリプリーズ(Reprise Label)が、高額の保険をかけたことを挙げています。

 さて、レヴィンはタッピーに「どうしてあんなデタラメを書いたんだ。」と詰め寄りました。タッピーは「私の主張に反論できる人は誰もいないよ。ミッチもノエルもチャスも死んでしまったし。」と語ったとか。確かにモニカも自ら命を絶っていますから。

 レヴィンは次のように疑問を呈しています。「当時、救急救命にあたった主治医のジョン・バニスター(Dr. John Bannister)が、40年後の今になって、なぜ突然見解を変えたのかわからない。どうして『他殺もあり得る』として、タッピーに同調したのか。」と。レヴィンは「作り話は、ジミやファンの人たちにも申し訳ないではないか。」と締め括っています。


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 さて、死の前夜にジミと共に飲んでいたマーマレード・レーベル(Marmalade)のミュージシャン達のうち、シンガー・ソングライターのメイク・スティーヴンス(Meic Stevens)が興味深い事を述べています。ジミが何と「パイント・グラスの赤ワインにラガーを混ぜてちゃんぽんで飲んでいた。」と言うのです。しかも「ジミはこれまで一度も赤ワインを飲んだことがなかったのに。」と。

 さて、ここで疑問が生じます。胃も肺も髪の毛も赤ワイン漬けだったのならば、なぜ検視官の報告では、血中アルコール濃度が標準値だったのでしょう。しかも、主治医のジョン・バニスターと共に救急救命にあたったマーティン・サイファート(Martin Seifert)医師も「アルコールの臭いは全く検知しなかった。」と証言しています。

 ジミは死の前夜、メイク達と別れて、さらにハシゴ酒をしたようです。その後、モニカの送迎でフラットに帰宅してからの行動を追ってみましょう。ジミは帰宅後の3:00AM、サマルカンド・ホテルでフィッシュ・サンドとコカ・コーラを飲んでいます。

 医師達がジミの体内に見たのは赤ワインではなく、コカ・コーラだったのでしょうか。また、「溺死」の原因となった左肺の中の400mlの液体は一体何だったのでしょう。現在では、公式の検死結果が明らかになっていますが、何が真相なのか、ますますわからなくなってきます。


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 唯一、彼の死がヴェスパラックス(Vesparax/睡眠薬)と関連しているという事は否定できない事実です。「アンフェタミン(Amphetamine)でハイになったのをVesparaxで鎮めようとした」という説には、賛否両論あるようです。いずれにせよ、ジミは6:00AM~10:00AMに大量のVesparaxを摂取しました。

 通常、半錠から1錠が適量であるのに、彼は9錠も飲んでいます。この量はまさに3~4時間後にはフィニッシュの世界です。6:00AM、睡眠不足が続いていたモニカもVesparaxを1錠飲んでいます。そして眠りからさめた彼女がタバコを買いに出た10:00AMまでの間に、どうやらジミはパッケージの残りのVesparaxを全錠飲んだようです。そして、モニカが11:00AMに戻った時、あってはならない惨事が起きていた・・・

 ジミはなぜ、9錠ものVesparaxを飲んだのか。一説によれば、彼がこれまで飲み慣れていたのはマンドラックス(Mandrax)。これはVesparaxに比べて致死量は32錠。ジミが両者を取り違えたという説もあります。


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 その後、証言台に立った人も、インタビューごとに話が変わったりする始末。さらなる検証を加えようとしても、40年前の当時を知る人も限られてきています。

 いずれにしても、オーバードース(overdose)と吐瀉物による窒息死、これは変わらぬ事実。加えて、ジミはマリファナ、LSD、アンフェタミンを常用していたし、おまけにアルコール依存。ジミを巡る最後の日々は、追えば追うほど霧に包まれます。迷宮の出口を見つけるための鍵は、永遠に見つからないのかも知れません。

 ウィキ(Wikipedia)ってみると、エリック・バートン(Eric Burdon)の談話として「モニカから『ジミの様子がおかしい』と電話があり、すぐ救急車を呼ぶよう促したが『部屋にドラッグがあるので呼べない』との返事だった。」という記載があります。このあたりのニュアンスにも様々なトーンがあります。たとえば、次のような検証もあります。


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 モニカはジミのかかりつけ医の電話番号が知りたくて、友人のジュディ(Judy Wong)に電話したのですが、ジュディも知らなかった。そこで、別の友人アルヴェニア(Alvenia Bridges)に電話しました。でもアルヴェニアも知らなかったので、アルヴェニアはモニカに「すぐ救急車を呼ぶように。」と助言しています。

 その時、アルヴェニアと一緒に居合わせたエリック・バードンが、突然電話口に出てきて「心配するなよ、ジミが目覚めるまで待てばいいんだよ。」と言ったとか。モニカが「いや、やっぱり救急車を呼ぶわ。」と返したところ、エリックは「じゃ、クソ救急車でも呼べばいいさ。」と応じた模様。これはあくまでもモニカの証言ですが。

 後に、エリック・バードンは次のように言ってます。「『ジミは大丈夫だよ。』って言ったんだけど、その後『じゃ救急車呼んだら?』って言ったんだ。」「ジミはいつも昼まで起きてこないから、起こしたって仕方ないし。でも、モニカがパニクってたから『起こしてコーヒー飲ませたり、顔に水をぶっかけてみたら?』って言ったんだよ。」


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 アルヴェニアはこう言っています。「それからモニカは、ジミのギターをどこかに隠したのよ。ギターの中にはカンナビスが隠してあったと思うわ。それがバレると大変でしょ。黒人が倒れてたって事だけじゃすまなくなるし。」当時はまだ人種差別感情も甚だしい時代でした。救急救命医のジョン・バニスターも二人の関係を好奇の目で見ていたらしい。

 この後、ジミの死を巡って様々な調査が行われている間にも、ジミの書いた遺書めいた詩をもとに、エリック・バードンによるジミ自殺説が飛び出して噂が噂を呼んで、事態は紛糾します。

 いずれにしても、探れば探るほど、関係者の言い分は肝心な部分ですれ違います。まさに、事実はヤブの中。モニカの証言も二転三転した末に、最後はメルセデスの中で排ガス自殺するという悲劇を迎えてしまいました・・・



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 一つだけはっきりしていることは、ジミの死によって幸せになった人なんていない、という事です。ジミ本人も含めてね。

 ミュージシャンに限ったことではありませんが、精神的なストレスやプレッシャーに起因する心の隙間を薬物に頼って埋めたくなる人の心の弱さほど悲しいものはありません。インスピレーションを得るためだとか、新しい次元の創造力に浸るためにだとか・・・どれもこれも全て方便のように聞こえます。心と体の健康を代償にするだけの価値あるものなんて、所詮この世にありませんよね。

 *本稿の内容は、もちろん私個人で調査したものではありません。たまたま手元にあったいくつかの資料をベースに、私見をまとめあげたものです。思い込みや勘違い、偏向の類いも多々あると思いますので、これも一つのストーリー・テリングとして捉えて下さい。




Jimi Hendrix / guitars, vocals, harpsichord, keyboard
Noel Redding / bass
Mitch Mitchell / drums


 それでは、次回はリンダ・パーハックス(Linda Perhacs)を題材に、マルチ・トラック・レコーディングの歴史などをひも解いてみましょうか。ひも解けなくて、こんがらがってしまう気もしますが・・・(笑)
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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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