第70話  The Beach Boys 『Friends』 (1968) U.S.

今夜の一曲 Friends


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 どうして、これほどキラキラしたお友達ソングが作れたのか。当時の暗雲たれ込めるアメリカ社会の陰鬱を考えると、それが不思議で仕方ありません。彼らがスタジオ入りしたのは1968年1月。レコーディングを終えたのが同年4月末でした。

 1月、米国はテト攻勢(Tet Offensive)に踏み切りました。ベトナム戦争は泥沼化していきます。2月にはベトナム戦争の指導方針を巡って、マクナマラ国防長官(Robert Strange McNamara)がペンタゴンを去り、4月には公民権運動やベトナム反戦運動の指導者、マーティン・ルーサー・キング(Martin Luther King, Jr.)牧師が暗殺されます。そして6月、ロバート・ケネディ(Robert Francis Kennedy)の暗殺・・・

 ヒッピー文化という破天荒なサブカルチャーが台頭したのも、時代の持つ閉塞感と無縁ではないと思います。

 こういう時代だからこそ、これほどピュアでジェントルなアルバムが作れたという見方も出来るかもしれません。ここには革命も流血も政治もない。混迷を窮めるアメリカ社会の激動と混迷を目の当たりにしたがゆえに、人間同士の相互愛を歌い上げたのでしょうか。彼らはラブ&ピースとは違う立ち位置で、我が身と世界を見つめていました。


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 もっとも、彼らには彼らの事情もあったようです。『スマイル』(Smile)(1967)も『ワイルド・ハニー』(Wild Honey)(1967)も撃沈した後で、何とか体勢を立て直す必要があったのです。ブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)に頼りすぎないよう、グループとしてのエネルギー・レベルを高める必要もありました。

 そんな事情の中で各メンバーの力量を高める方向に作用したのが、本作の制作過程であり、その結果、共作が格段に増えています。また、カール・ウィルソン(Carl Wilson)やデニス・ウィルソン(Dennis Wilson)の飛躍的な成長も見て取れる快作となりました。

 ただ、商業的には全く成功しませんでした。米国本国ではビルボード126位という惨憺たる結果。しかし、英国では13位まで上昇しています。彼らの不人気を象徴する出来事が、ニューヨークのスタジアム(Singer Bowl)で予定されていたコンサートのキャンセル事件でした。

 聞くところによると、キャパ16,000のところ、800人しかチケットが売れなかったという話です。これでは興行的には成立しません。それほど売れなかった時代の作品にもかかわらず、本作は、実に切なく愛くるしく、彼らの卓越したメロディ・センスが楽しめるアルバムになっています。


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 今夜の一曲は、ワルツ形式のミドル・テンポの「フレンズ」。キャッチーなメロディが一捻りしたコード進行の中で光る名曲となっています。カールのヴォーカルも、お家芸とも言えるハーモニーも、非の打ちどころがありません。

 これだけの作品を作れる彼らを、どうして当時のキャピトルは見捨てようとしていたんでしょう。恐らく当時は、他に魅力的でフレッシュで、革命的なサウンド・メイキングに長じたグループが、雨後のタケノコ状態だったんでしょう。レーベルとしては、破たんしかけの古いグループにしがみつく必要を感じていなかったのです。

 実はこの時期(2月)、マイク・ラブ(Mike Love)はマハリシ・マハシュ・ヨギ(Maharishi Mahesh Yogi) に心酔して超越瞑想(Transcendental Meditation)の研究のためにインドのリシュケシュ(Rishikesh)入り。同行のメンバーはビートルズ(The Beatles)やドノヴァン(Donovan)たち。

 従って、レコーディングはマイク抜きで行われ、最終段階のヴォーカル・セッションはマイクがドタ参する形で行われたようです。レコーディングはブライアンのホーム・スタジオで行われました。

 こういうのをサイケ・ポップと言っていいのかわかりませんが、本作のデヴィッド・マクマッケン(David McMacken)によるスリーブ・デザインは、当時の彼らの理想とする音楽の形をよく伝えています。

 『Friends』(1968)。時代の狭間に咲いた可憐な花。決して時代のあだ花ではなかったと確信しています。


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Al Jardine – lead, backing and harmony vocals, guitar
Bruce Johnston – lead, backing and harmony vocals, piano
Mike Love – lead, backing and harmony vocals
Brian Wilson – lead, backing and harmony vocals, hammond organ
Carl Wilson – lead, backing and harmony vocals, guitar
Dennis Wilson – lead, backing and harmony vocals, drums

plus
Marilyn Wilson – harmony vocals on "Busy Doin' Nothin'"
Carol Kaye – bass guitar
Al Vescovo – guitar





次回の音楽夜話は、紆余曲折のあった英国のこのグループ。アドレナリン出っぱなしの疾走感のある一発(1977)をどうぞ(笑)
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テーマ : 洋楽ロック
ジャンル : 音楽

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No title

こんにちは。
ブライアン・ウイルソンの音楽が理解されるのにかかった何十年の歳月を思えば、音楽界がまだ成熟してなかったから、ってことになるんでしょうねえ。
メンバーの誰もサーフィンしないのにサーフミュージックで売り出されたのも、当時はアーティストがレコード会社の奴隷的扱いだったからでもあるんでしょうね。
例えヒットはしなくても、そのクオリティの高さは今ちゃんと評価されているのが救いですね。

ところで、私が愛読してる本には、「マハリシ・マハシュ・ヨーギの国際宗教団体に属するアーユルヴェーダ医は、利潤追求を目的としてる人間が多いので、お勧めしない」と書かれていました。当時から有名人を勧誘してた可能性も大ですね。

アーチストとレーベル

 yuccalinaさん、その通りですね。アーチストが、レーベル側の都合で好きなように扱われることは日常茶飯事ですね。そういう意味では、昔も今も変わらないのかもしれません。ミュージシャンが自分のレーベルを立ち上げたくなる気持ちもよくわかります。

 結局、経営のノウハウのないままのレーベルの運営は難しいので、経営が立ちゆかなくなることもよくあります。アーチストもかすみを食べて生きていくことはできないので、どこでレーベル側の意向と折り合わせるのか、多くのミュージシャンたちが悩んできたようです。

 yuccalinaさんの愛読するヨガの本ですか。かつて社会的に話題になったある新興宗教団体が、有名人を広告塔にしていたことを思い出します。なるほど、と思いました。

 寒い日が続きますね。いつもコメントいただき、ありがとうございます。お体大切に。

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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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