第78話  Banco Del Mutuo Soccorso 『自由への扉』(Io Sono Nato Libero)(1973)Italy

今夜の一曲 「政治犯罪者の歌」(Canto Nomade Per Un Prigioniero Politico)


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<スリーヴ写真の謎>

 ようやく、スリーヴ写真の目玉の正体が解けたぞっ!故フランチェスコ・ディ・ジャコモ様の目玉だったんだ。ありがたい、ありがたい。で、写真の扉は写真家チェザーレ・モンティ(Cesare Monti)が、ミラノのラヴァンダイ(Lavandai)の路地で見つけ出した。

 今じゃありえないけど、現地の撮影許可を取るわけでなく、バンコのメンバーを伴って、いきなり現地でのロケを敢行したって書いてある。扉から小さく顔と手だけのぞいてるのはロドルフォ・マルテーゼ(サン・ディエゴ在住)だったんだ。お茶目さんですねっ。

 ご参考までに、どうやって答を見つけたかと言うと、もともとはLinkiesta.itから辿っていって、チェザーレ・モンティのブログ(il blog di Cesare Monti)を発見!チェザーレと言えば、イタリアン・ロックでは重要アーチストですね。『自由への扉』をはじめ、彼の担当したジャケを前にすれば、あなたはきっと失神してしまうでしょう。

 一例をあげると、マクソフォーネ(Maxophone)、サンジュリアーノの『テイク・オフ』(Sangiuliano)、バンコの『最後の晩餐』(Come in un'ultima cena)、チェルベッロの『メロス』(Cervello)、アンジェロ・ブランデュアルディ(Angelo Branduardi)、アルベロモトーレ(Alberomotore)、カンツォニエーレ・デル・ラツィオ(Canzoniere del Lazio)・・・あれれ、反応もなく静かだと思ったら、もう皆さん既に気絶なさってるんですね。


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<政治犯罪者の歌>

 キングのユーロピアン・ロック・コレクション Part II。初めて耳にした異国情緒あふれる洪水のようなサウンド。英米の音に慣れ親しんできた私は、この何物にも似ていない独創性に満ちたサウンドに完全にノックアウトされた。

 勿論、注意深く聴いてみると、英国のプログレ・アーチストたちの存在なくして彼らが誕生することは決してなかった。YesやELP、Gentle Giantなど、実によく研究している。その上で彼ら独自のイタリア的叙情がコーティングされている。

 ノチェンツィ(Vittorio & Gianni Nocenzi)兄弟の重厚なキーボードのレイヤーは圧倒的で、そのオーケストレーションは広大無辺だ。表層的な理解かもしれないが、当時は一聴してPink Floydの『原子心母』(Atom Heart Mother)や、Moody Bluesのサウンドが頭に浮かんだ。


Banco porta 1


 だが、これはバンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソ(Banco Del Mutuo Soccorso)の身に染みついたクラシックの素養と言うべきだろう。ここにフランチェスコ(Francesco Di Giacomo)のオペラチック・テノールが乗ると、まさに彼らの独壇場とも言えるクリエイティブな世界が現れる。

 どこまでがマルチェロ・トダーロ(Marcello Todaro)のギターで、どれがゲスト参加のロドルフォ・マルテーゼ(Rodolfo Maltese)のギターかは不明だが、4th『イタリアの輝き~バンコ登場』(Banco)(1975)以降、ギタリストが交代している。ゲスト参加の二人のパーカッショニストも曲の魅力を引き立たせる。曲中での緩急の付け方は自由自在。テンポ・チェンジに伴ってムードが一変する様は神業としか言いようがない。

 アコースティック楽器とエレクトリック楽器が巧みに融合しているのも神技と言えよう。複雑な曲構成だが、それを感じさせないのも不思議。とにかく、終始むせかえるようなイタリアの叙情に包まれていて、めまいがしそうだ。クラシカルでありながらロック的で、美しいテンションで塗り固められた1973年不朽の名作。


Banco porta 2


 さて、今回取り上げたサード『自由への扉』(Io Sono Nato Libero)のアルバム・タイトルだが、これはA①「政治犯罪者の歌」(Canto Nomade Per Un Prigioniero Politico)の歌詞からの引用だ。英語に直せば I Am Born Free. とでもなろうか。日本語のタイトルの「政治犯罪者の歌」だが、原題のNomade(遊牧民の)の部分を訳しきれていない点を指摘しておこう。翻訳という作業は実に難しい。

 この曲はアルバムの核心部だろう。為政者にとって政治的に危険思想を持つ人物を刑務所に投獄する、という構図は特段珍しい事ではない。後のヴィットリオ・ノチェンツィ(Vittorio Nocenzi)のインタビューによると、この曲はチリの絶望的な政治的混迷を念頭に歌詞が書かれた。1970年、アジェンデ(Salvador Allende)による社会主義政権が成立する。だが、CIAの横やりでチリの社会はカオス状態に陥ってしまう。

 米国はドミノ理論を恐れた。チリの混乱が中南米や南アフリカを始めとする第三世界に波及することを危惧したのだ。こうした中で、米国が後押しするピノチェト(Augusto Pinochet)を首謀者としたクーデタが勃発。


Banco porta 3


 かくして1973年、チリに軍事独裁政権が成立する。そして左翼思想を持った人物は危険人物と見なされ、投獄されたり、監禁されて拷問を受けた。カリブ海諸国をはじめとする中米や南米は、米国にとっては裏庭(backyard)そのものだ。米国政権にとっては最大の関心事。CIAが小国の政情に目くじら立てるのも無理からぬことだった。

 こうした、時の為政者による粛正や蹂躙は、隣国ブラジルでも同様だった。ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)やカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)らのミュージシャン達は、逮捕された挙げ句にロンドンへと国外追放となる。

 こうした状況がメタファ(暗喩)としてもシミリ(直喩)としても登場するのが、この曲「政治犯罪者の歌」だろう。それだけでなく、アルバム収録のそこかしこにヴィットリオのメッセージが織り込まれている。


Banco porta 4


 「この独房は私の失望でいっぱいだ」「思想を理由に投獄しても、その思想を封じ込めることはできない」「たとえ拷問を受けても私の思想は自由だ」「私は生まれながらに自由を享受する身」「邪魔しないでくれ、私は空を飛んでいる夢を見てるんだ」「やつらは私がさげすむ戦争を正当なものだと言っている」「私の勇気ある行動はこの泥の中から始まるのだ」・・・

 自由への希望を捨てず、遊牧民の馬のように荒野を駆け巡り、鳥のように大空を飛翔することを夢見て・・・。そんな自由への希求の念が歌の端々からにじみ出る佳曲。偏狭な教義や、人為的な国境線、民族の血の呪縛から逃れられない人々が、世界にいかに多いことか。そんな定めを嘆く声は為政者には届かない。とめどなく繰り返される流血はごめんである。

 2015年。明けましておめでとうございます。苦境に立つ声なき人々に、あまねく幸せが届きますように。


Banco porta 5


- Vittorio Nocenzi / organ, harpischord, synths
- Gianni Nocenzi / piano, keyboards
- Marcello Todaro / electric and acoustic guitars
- Renato D'Angelo / bass, acoustic guitar
- Pier Luigi Calderoni / drums, percussion
- Francesco Di Giacomo / vocals

Plus +
- Rodolfo Maltese / acoustic and electric guitars
- Silvana Aliotta / percussion
- Bruno Perosa / percussion


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 さて、新春第二弾は北欧でサイケ三昧です
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No title

あけましておめでとうございます。
旧年中はご訪問&コメントありがとうございました。
今年もよろしくお願い致します。

Re: No title

> あけましておめでとうございます。
挨拶が遅れて申し訳ないです。
改めまして、あけましておめでとうございます。
おかげさまで、当ブログもようやく越年できました。
本年がyuccalinaさんにとって、幸多き年となりますようお祈り申し上げます。
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ticca

Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

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