第80話  Soft Machine 『Noisette』 (1970) U.K.

今夜の一曲 Esther's Nose Job (前編)


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 2000年、キュニフォーム・レコード。まさに脳天にくさび(Cuneiform;くさび形の)を打ち込まれるような衝撃。この発掘モノは、ただ者じゃない。サイケ・ポップな重要作『Volume Two』からジャズ・ロック『Third』の中間期にレコーディングされた、センセーショナルなドキュメンタリー。極私的にはピュリッツァー賞かピーボディ賞ものの殊勲だ。収録場所はFairfield Hall, Croydon, England(1970年1月4日)。

 何が貴重かと言って、セプテットからNick Evans, Marc Charigが抜けたクインテットというレアな編成。Ratledge, Wyatt, Hopperのクラシック・トリオにElton DeanとLyn Dobsonの二管を加えた珍しいコンボ。DobsonのRoland Kirkを意識したプレイ、熱のこもったフルートとかスキャットだってぶっ飛んでる。

 『Third』に収められた「Facelift」を収録したのも、このコンサートだ。Kevin Ayers作の「We Did It Again」を含め、初期作をこのジャズ・フォーマットでバトルしたり、未発表曲をアグレッシヴに次々に繰り出す凄絶な白熱教室。やわな私は、幾度となく悶絶して緊急外来に担ぎ込まれたものだ。


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 さて、『エスターズ・ノーズ・ジョブ』(Esther's Nose Job)。あまりに謎に満ちた曲で、一切の解釈を拒絶する勢い。これは、もうお手上げ状態。私も含め、このタイトルを聴く人の中で、トマス・ピンチョン(Thomas Pynchon)の『V』(1963)を読んだことのある人は、そう多くはないはず。そうした意味では、本当にこの組曲を理解している人は限られているかも。

 いや、『V』を読み終えたからこそ、かえって脳内のシナプスが混線してしまった人も多いと思う。そもそも、『Esther's Nose Job』は、ピンチョンの小説『V』の第四章から引用されている。その点に触れる前に、ソフツの組曲についてざっと復習しておきたい。

 この曲の元歌は『Volume Two』(1969)のB面に収められたジャズ・ロック組曲だった。にしても、不思議に組曲名のクレジットがあるのは米国盤だけだったのはどうして?

 謎めいているのは、『Esther's Nose Job』がB面全体にタイトルされているくせ、コンサートでの演目から判断すると、その『Esther's Nose Job』組曲はB①②の「As Long as He Lies Perfectly Still」「Dedicated to You But You Weren't Listening」を除いたB③からのパートを意味するらしい。


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 組曲は「Fire Engine Passing with Bells Clanging」を皮切りに怒濤の勢いで燃え広がり、「10:30 Returns to the Bedroom」をもって燃え尽きて灰になる。

 この組曲がどうして『Esther's Nose Job』というタイトルなのか。その謎を解くヒントはなさそうに思えた。というのも、歌詞が添えられているのは「ピッグ」(Pig)のみであり、その歌詞とピンチョンとの接点は全く見えてこないからだ。

 マイク・ラトリッジ作曲、「Pig」は、ロバート・ワイアットの歌声が冴える、お得意の卑猥な歌もので、「Moon In June」に通じる猥雑さ。一聴して「なんじゃこりゃー」なのが、ワイアットの破天荒な歌い方だ。この譜割りを全く気にかけない歌い方は、はじけまくってる。

 ワイアットはドラマーなので、リズム・キープの何たるかは、わきまえているはず。振り返ってみても、彼はジミヘンとのUSツアーを終えたあと、一人ロサンゼルスやニューヨークに引きこもっていた。そこで、多重録音による『Rivmic Melodies』を、鋭意クリエイトする作業にひたすらいそしんだ。


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 マルチ・トラッキングというのは当然、他のパートとの間合いを測りながら各パートをレイヤリングしていかねばならない。ベーシック・テンポをクリック音でドンカマしていたのか、それとも、他の手法でジャストなテンポをキープしたのか、いずれにしても彼はリズム割の才覚ある鬼才のはず。

 それが、あの唱法なのだからミステリー。ラリって歌った可能性は否定しきれないが、案外覚醒した意識で無意識な美しい混沌を狙ったのかもしれない。

 いずれにしても、このダダっぽさを美学(美楽)に感じさせるところがワイアットの魔法なのだろう。加えてラトリッジの猛り狂うオルガンやホッパーの重厚なファズ・ベースが絡めば「錬金術」もきわまれりである。

 まぁ、そんなわけで今夜もまた眠れないわけですね(笑)

 さて、次回はその「Pig」に切り込むつもりですが、せいぜい返り討ちにあうのが関の山かも。(涙;)

Elton Dean - Alto Sax, Saxello
Lyn Dobson - Flute, Soprano Sax, Vocals
Hugh Hopper Bass, Electric Bass
Mike Ratledge - Organ, Electric Piano
Robert Wyatt - Drums, Vocals

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No title

こんにちは。

ソフツは若葉マークですし、ピンチョンも読んだ事のない私ですが、ticcaさんにお尋ねしたいことがあるんです。

マイク・ラトリッジという方はゲイでしょうか。マーシャ・ハント(ミック・ジャガーの最初の子供を産んで、マーク・ボランの彼女でもあったらしい)が彼と書類上だけの結婚をしていたのは、カムフラージュだったのかしら?と思ったんですよね。

その辺りの裏話をご存知でしたら、教えていただけますか?

記事と関係無い話ですみません。

gay or straight !?

yuccalinaさん、こんにちは。なかなか興味深い質問ですね。
まったくわかりません(笑)
vipfaqのぞいてみましたが、要領を得ませんでした。

というわけで、検索してみると、gay or straight.comっていうズバリのサイトがヒットしました。
これは投票によって、セレブのゲイ度が決まるっていう笑えるサイトみたいです。

ただし、ラトリッジのページ(マイク・ラトリッジ・ゲイダー)に投票したのは一人だけ?
投票結果は50%gayだそうです。

平均するとゲイ評価(gay-o-meter)69%以上で晴れてゲイ(?)らしいので、ラトリッジはストレート評価ってわけでしょうか(笑)

ちなみにエルトン・ジョンは91%、フレディ・マーキュリー84%、ジャスティン・ビーバー82%だそうです。
投票者数の多いセレブのページはコメントの読みがいがありますね(^_-)
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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

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