第86話  Bill Evans Trio 『Waltz For Debby』 (1961) U.S.

今夜の一曲 My Foolish Heart (愚かなり我が心)

wltzfor.jpg



 ビル・エヴァンスが左利きとは知らなかった。もっとも「左利きだからやはり〇〇なんだ」という結論ありきではありません。

 以前、エロール・ガーナー(Erroll Garner)の「ミスティ」(Misty)を取り上げた時、「ガーナーが左利きである事が独特の奏法を産んだ」という指摘を紹介しました。ビル・エヴァンスのジャズ・ピアニストとしての評価にも、彼が左利きであった事に触れたものが見受けられます。

 一般的に、左利きの人は右脳が発達していると言われます。右脳はいわゆる「芸術脳」で、五感を含めて物事を感覚的に捉えることを得意とするため、左利きの人は、音楽や絵画・空間の認知などの刺激に反応しやすいようです。

 一方、右利きの人は左脳が発達していると言われます。左脳は論理脳で、言語や解析などを得意とします。しかし、これをもって全ての人間の活動をくくるのは無謀であって、先入観や偏見に結びつきかねない発想でしょう。


wfd1.jpg


 左利きの人は全人口の約1割と言われ、彼らは右利きの文化に適応しようとするので、右手を使う頻度も多くなります。それで脳幹が発達し、器用さに結びつくと指摘する識者もいます。その一方でこうした仮説を否定する学説が存在するのも確か。

 そしてまた、こうした右脳-左脳という対立概念で人間の思考や行動を分類すること自体がナンセンスだ、という意見すらある。いずれにせよ、芸術・文化のカテゴリーにおいて、天才と目される人物が左利きだったりすると、いきおいその事実だけがクローズアップされるのも確かですね。

 それでは、左利きの天才肌のアーチストと言うと、どんな人を思い浮かべますか。ちょっと調べてみるだけで、膨大な偉人たちが検索エンジンにヒットします。

 マッコイ・タイナ-、ウィントン・マルサリス、ボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリクス、ポール・マッカートニー、パガニーニ、ベートーベン、ラフマニノフ、ショパン、モーツァルト、シューマン、プロコフィエフ、ジョン・セバスチャン・バッハ、ラヴェル、ドビュッシー、グレン・グールド、ピカソ、ミケランジェロ、ダ・ヴィンチ、アレキサンダー大王、ナポレオン、ジャンヌ・ダルク、ニュートン・・・そして勿論、我がビル・エヴァンス。


billevans.jpg


 けれども、偉業を成した人物の中で左利きの人物を挙げてみた・・・という程度の事であって、左利きの人に天才肌の人物が多いという結論ではないんですけどね。

 さて、エヴァンスの「My Foolish Heart」は『Waltz For Debby』(1961)収録曲です。第一期トリオのメンバーはスコット・ラファロ(Scott LaFaro)(b)、ポール・モチアン(Paul Motian)(ds)。

 エヴァンスはマイルス・デイビスのグループを脱退後、自ら率いるトリオにふさわしいクリエイティブな音を求めていました。そんな中、彼が出会った天才肌のベーシストがラファロ。

 ラファロが持ち込んだベースの概念は、単にリズム隊の一員としてリズムをキープするのみならず、ドラムスやピアノとのインター・プレイを通じて、ジャズの新しい地平を開こうとするものでした。エヴァンスは、ラファロによって活性化され、トリオとしてのダイナミズムを得たとも言えます。


satvv.jpg


 それだけの才能に溢れていたからこそ、「My Foolish Heart」のようなスタンダードを演らせても、饒舌になりすぎず、選りすぐった音で聴く者の心を揺さぶるのでしょう。

 悲しいことに、ラファロはヴィレッジ・ヴァンガード公演の最終日(1961年6月25日)の11日後(7月6日)、25歳の若さで交通事故死します。

※最終日の公演はマチネ2回、夜に3回の計5セット。これがライヴ・レコーディングされた。
※7月6日1:45A.M.。友人宅からの帰路、ラファロの乗ったクライスラーはR20で路傍の大木に激突、即死。
※ヴィレッジ・ヴァンガード公演は『Sunday At The Village Vanguard』『Waltz For Debby』の二枚のアルバムとなった。
※アルバムが捉えているのはトリオの演奏だけではない。アルコールが入ったグラスが鳴る音、客席の話し声や騒音、そしてそれら全てがあの音楽に必要なサウンドだった。<参考;『ビル・エヴァンスについてのいくつかの事柄』中山康樹(河出書房新書)>

 ファンのみならず、エヴァンスの心痛はいかほどだったろう。しばらくはピアノに触れる事もなかったそうです。魂の抜けたような日々の後、気を取り直して再スタート。


ScottLaFaro.jpg


 ここに紹介する動画は、1965年3月、第二期ビル・エヴァンス・トリオのJazz 625(Humphrey Lyttelton)公演。ラファロを継いだベーシストはオリン・キープニューズ(Orrin Keepnews)紹介のチャック・イスラエルズ(Chuck Israels)、ドラムスがラリー・バンカー(Larry Bunker)。なかなか濃厚な演奏が楽しめます。

 エヴァンスは、あたかも新しいインスピレーションを得たかのように、オリジナル・レコーディングを越える勢いの好演に終始します。エヴァンスの名演を引き立てるチャックの清廉なベース・ラインも、ラリーの妖艶なブラシ・ワークも心に染み入りますね。


Bill Evans - piano
Scott LaFaro - bass
Paul Motian - drums



スポンサーサイト

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

コメントの投稿

非公開コメント

ゲスト・ブック
Profile

ticca

Author:ticca
 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

 それでは、今宵の音楽夜話におつきあい下さい。

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR