第89話  The Beatles  『Revolver』 (1966) U.K.

今夜の一曲 Eleanor Rigby


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◆以下の設問に答えよ◆

問題1;ロックのバンド編成にバイオリンが導入されるようになった背景は何か?
問題2;ロック界におけるバイオリンの巨匠(マエストロ)を挙げなさい。 
問題3;ロック界において、バイオリニストであることの長所は何か?
問題4;ロック界に初めてバイオリンを導入したのは誰か?
問題5;ロック史におけるイースト・オブ・エデンの業績を評価せよ。
(各20点 計100点)


 ロック・バンドの編成は、ベース・ドラムス・ギター・ピアノというのが初期のロックの定番でした。やがて、サウンドの手詰まり感を解消しようとして、音のフロンティアを開拓する動きが生まれます。他ジャンル、他文化圏の楽器を積極的に登用しようとする動きがそれです。

 たとえばそれは、ジャズやクラシックのカテゴリーに分類される楽器や奏法であったり、南米・アフリカ・西アジアの打楽器や弦楽器などの民族楽器であったりします。ハープシコードやティンバレス、シタール、タブラと言った楽器がその代表例でしょうか。

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 こうした流れはビートルズ・サウンドを追ってみると一目瞭然でしょう。これまでもビートルズは『Help!』(四人はアイドル)(Jul. 1965)の「悲しみはぶっとばせ」(You've Got To Hide Your Love Away)で、セッション・ミュージシャンを起用しています。フルーティストのジョニー・スコット(Johnnie Scott)でした。

 当然ながら、自然に弦楽器への需要も生まれました。ポール・マッカートニー(Paul McCartney)が14歳の時に失った亡き母メアリーに捧げた「イエスタデイ」(Yesterday)が初出です。ジョージ・マーティン(George Martin)は、Violin2本、Viola1本、Cello1本の弦楽四重奏のスコアを書き、この曲は爆発的なヒットを記録しました。

 『Rubber Soul』(Dec.1965)でその動きは深化し、「Norwegian Wood」(ノルウェーの森)にはシタールが導入されます。弦楽器だけでなく、故郷リヴァプールへの思いを綴った「In My Life」ではジョージ・マーティンによるバロック調のピアノ・ソロが聴けます。

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 『Revolver』(Aug.1966)においてこうしたチャレンジは加速し、「Elearnor Rigby」でジョージ・マーティンはViolin4本、Viola2本、Cello2本の弦楽八重奏のスコアを用意しました。二番煎じ感を回避するため、レガートな「Yeserday」に対し、スタッカートな緊迫ムードで曲想を描きあげました。

 ジョージ・マーティンが自伝『All You Need Is Ears』で語っているように「Eleanor Rigby」と「Tomorrow Never Knows」の二曲が、その後のビートルズ・サウンドを方向づけました。折しも呼応するように、フラワー・パワーやヒッピー・ムーヴメントが胎動し始めていました。

 他ジャンルとの融合は『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(Jun.1967)でピークに達します。一例を挙げると、ボードヴィル調の「When I'm Sixty-Four」ではクラシック畑のミュージシャンを起用し、クラリネット2本、バスクラ1本をオーバーダブ。

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 ※ジョージ・マーティンは自伝の中で「三人のクラリネット奏者はいかにも場違いな感じで、まるでウェムブレー・サッカー・スタジアムの真ん中で、レフリーとラインマンだけがポツンと立っているような光景だった」と語っています。

 シングル曲「Penny Lane」(Feb.1967)は、コンサートでバッハ(Johann Sebastian Bach)のブランデンブルク協奏曲(The Brandenburg Concertos)を聴いたポール・マッカートニーが、ピッコロ・トランペットの音色をリクエスト。かくしてロンドン交響楽団(LSO)のデヴィッド・メイソン(David Mason)が駆り出されます。

 ※メイソンはその他にも「A Day in the Life」「Magical Mystery Tour」「All You Need Is Love」「It's All Too Much」にも貢献しています。

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 「Within You Without You」では、インド音楽協会のメンバーがシタールやタブラ、タンブーラ、スワマンダルといった楽器でバッキングを担当。インドの弦楽器ディルルーバのイメージでミステリアスにスラーするストリングスのスコアも書かれました。

 「Being for the Benefit of Mr. Kite!」ではウーリッツァとハモンドをぶつけたり、古いヴィクトリア朝のスチーム・オルガンのレコード(Souza / The Washington Post March?)を録音したテープを切り刻んで放り投げては適当につなぎ合わせ、サーカス風の音響効果を得ています。

 「A Day in the Life」では42人のオケを起用します(予算の関係で90人のフルオケ案は却下)。しかもフリーキーにクレッシェンドした後、フォルテッシモで突如としてカット・アウト。その後に続くグランド・ピアノ2台+アップライト・ピアノ1台のE majorコードの打鍵を重ねて作った大団円。

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 極めつけはB面最後に刻まれたレコード針の遊び溝(ランナウト・グルーヴ)。ヤム・タム・ティム・ティンみたいな戯れ言が刻まれて逆回転をかけられる。おまけにポールの「犬にしか聴こえない音を入れよう」という素っ頓狂な発案にジョージ・マーティンは「2万Hzくらいの音を入れてみよう」と同意。警察犬用の犬笛の音をレコーディングします。

 さて、本題に戻りましょう。ビートルズの場合、「Yesterday」や「Eleanor Rigby」の段階では、弦楽器はバッキングのための適用にとどまっていました。しかし、これが先鞭をつける形で、様々なチャレンジに花が咲くことになります。

 ビートルズの例からわかるように、ロックというのは貪欲な胃袋の持ち主です。新たな実験に燃えたり、通常の編成に他ジャンルと見なされる楽器を次々に導入していったのは、どん欲に守備範囲を広げようとするロックの習性そのものだったのかもしれません。

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 確かに企画倒れに終わったり、実験のための実験を重ねた末に炎上することも少なくなかったでしょう。けれども、失敗を恐れぬしたたかさが、こうしてロックを進化させてきたのです。

 バイオリンに対するニーズもこうした流れの中にあります。先に述べた果敢なチャレンジに勇を奮って、バイオリンはエレキ・ギターや電子鍵盤類、管楽器と肩を並べるリード楽器として運用されるようになります。そのために必要な熟成の時間はさほど必要ではありませんでした。

 それでは皆さんには合格解答を示していただきましたので、問題2に進みましょうか(笑)。



Paul McCartney – Lead and harmony vocals
John Lennon – Harmony vocal
George Harrison – Harmony vocal
Tony Gilbert – Violin
Sidney Sax – Violin
John Sharpe – Violin
Juergen Hess – Violin
Stephen Shingles – Viola
John Underwood – Viola
Derek Simpson – Cello
Norman Jones – Cello
Peter Halling - Cello
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テーマ : 洋楽ロック
ジャンル : 音楽

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 音楽ネタを中心とした雑記帳です。

 60年代後半から70年代にかけてのワールドワイドなロック、ポップス、プログレ、アシッド、サイケ、フォーク、ジャズロック、ジャズなどの話題を主に、ひっそりメモってます。

 それぞれの記事はその時々のフィーリングで書いていますが、基本形はある曲をきっかけに感じた雑感が題材になっています。

 私は単なる音楽愛好家ですので、記事に関しては、思い込みや勘違いがたっぷりあることかと思います。その点はご容赦願います。もし、お気づきの点があれば、ご指摘下さい。

 個人的に思い入れのあるものを主に綴っていますので、マイナーかつ気まぐれなセレクション、お許し下さい。

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